第565話 出立の日
「おはようございます。あなたがミナトさんですね。ベオーザ卿とティーニュ殿からお話は伺いました。冒険者として活動されているだけでなく王都でお店を経営されているとか……」
春の陽光の下、和かな笑顔でミナトにそう言ってきたのはここ神聖帝国ミュロンドの第三王子であるジョーナス=イグリシアス=ミュロンド。
「オ、オハヨー……、ゴザイマス……、モッタイナイオコトバデス……」
なんとか精一杯のそう返すミナト。気さくに会話を続けるジョーナス王子には申し訳ないがそれ以上の会話を続ける気力と体力がミナトには不足している。
『さすがにちょっと疲れた……』
カサカサの肌とげっそりと頬のこけたその様子は絞り切ったボロ雑巾のようであり、下半身は生まれたての子鹿のようにプルプルと震えている。
『これは私だけのせいってことにはならないと思うわよ?』
『うむ……。これは少し申し訳なかったか……』
『ん。調子にのった……』
『楽しかったデス〜』
朝から
ここは帝都グロスアークの第一地区と呼ばれる地区、皇帝が暮らす教会とも神殿とも説明できる巨大な建造物に設けられた馬車などを止める一画にミナト達は集まった。
ここより馬車に第三王子のジョーナスを乗せルガリア王国の王都を目指すのである。ちなみに御者はウッドヴィル家の執事兼元暗殺であるガラトナさんだ。
本来、王族が他国へ赴くというのであれば貴族達の前で皇帝から命を受ける式典を催したり、見送りの従者がいたりするのが一般的である。しかし現在この場にいる神聖帝国ミュロンドの関係者は第三王子ただ一人。皇帝は病床にあることは仕方がないが二人いる兄達も姿を現さないとは……。
これはルガリア王国やウッドヴィル公爵家を下に見ているとも取れる不遜な行為とされてもおかしくない。
『皇帝が元気ならこの対応はないわな。あの第一王子の指示ってことか……。ちょっと間違ったら外交問題じゃない?それだけジョーナスさんはこの国で関心を持たれていないとも考えられる。バルトロス教ね……。どう考えてもおれとの相性は悪そうだ』
フラフラの状態でもそんなことを考えるミナト。仮にもこの国の王子としてこの待遇はいかがなものかと思ってしまうが当の本人は笑顔で馬車へと乗り込んでゆく。どうやらこの国から出ることが本当に嬉しいように見受けられた。
『それでも故郷を離れるのはどうなんだろう?だけどこのままだと暗殺されることを本人も感じ取っているはずだからこれでいいのか……』
そうして隊列を組むウッドヴィル公爵家の一行。このまま第一地区、第二地区を通り、特別なスキルや魔法の才を持たないためここまで来れなかった騎士やポーター達と合流。そのまま帝都グロスアークを離れる予定となっている。
「よし!出発だ!」
隊を率いるカーラ=ベオーザの声が響き、ウッドヴィル公爵家の一行は帰路についた……。
『イテテ……、腰が……、もうどうせなら
一歩を踏み出しただけのミナトがそんなことを思っていると、
「待たれよ!」
大音声が響き渡る。
ミナトは声のした方へと視線を送った。神殿というか教会いうかそんな建造物に造られたバルコニーのような場所に男が一人立っている。
『第一王子か……』
ミナトが心の中で呟いた。
「その場を動くことは私が許さん!貴殿らにはリュームナス教皇、ブリュンゲル枢機卿ら二名の暗殺を企てた嫌疑がかけられているのだ!」
ミナトは
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