第564話 雷鳴轟く
ピエールからの映像はなおも続く。
ピエールの活躍もありカーラ=ベオーザとティーニュはバルトロス教の信者になることはなかった。想定外の事態にブリュンゲル枢機卿が悔しさを滲ませつつ項垂れているところに、
「ベオーザ卿!おお!ティーニュ殿まで!お久しぶりです!」
応接室へと姿を現した男性がそう声を上げる。若いとミナトは感じた。整った顔立ちに金髪碧眼、身長は一七〇センチほど……。やや細身だが言葉にすると中肉中背くらいだろう。その人物の登場にブリュンゲル枢機卿、カーラ=ベオーザとそしてティーニュが立ち上がって礼を執る。
「お久しぶりです。ジョーナス様……」
「ジョーナス様におかれてはご機嫌麗しく……」
「私がお二人に不敬を問うことなどありえませんからそんな他人行儀な対応はやめて下さい、と言いたいところですがこの場では仕方ありませんね」
気さくな様子で二人に話しかける男性。
『姿絵と同じ……、この人が第三王子のジョーナス=イグリシアス=ミュロンドで間違いないね』
『そうでしょうけど、王族にしては随分とフランクな登場ね』
シャーロットの言葉にミナトは頷いてみせる。本来であればカーラ=ベオーザとティーニュが第三王子の下へと出向くのが当然であるし、もしこのように第三王子が登場するのであれば従者による先ぶれがあって然るべきなのだ。
しかしそのどちらでもなく旧友に会うかのごとき気軽さで第三王子がこの応接室へとやって来たという事実は、この国における第三王子の権威が著しく低下していることを如実に示していた。
『ま、その辺りのことは王都に戻ればなんの問題ない。やっとジョーナスさんと会えた。後のことはカーラとティーニュに任せよう。残っているのは……』
心の中でそう呟きつつ、今夜滞在する部屋への案内役に待ちぼうけを食わされているミナトは最後の映像に取り掛かる。ちなみにシャーロット、デボラ、ミオは依然としてミナトにくっつき絶賛
四つ目の映像はこれまでとは一線を画すほどに宗教色の強い空間といえた。広い部屋にゆらめく蝋燭を数多設置した祭壇と共に祀られている幾つもの石像。
ピエールからこの映像が送られて来た時、デボラが『第一王子は教皇と共にいる』と呟いていた。
ミナトはバルトロス教の詳しい教えなど知らない。だが脳内に浮かぶ映像から確認できる部屋の造りは、この部屋の持ち主がバルトロス教にとって非常に高位の人物であることを如実に示していた。
その空間にいるのはは老人と三十代後半と思しき男性の二人のみ。
『あの老人がバルトロス教実質的なトップである教皇リュームナス、そしてこっちが第一王子のバルナバス=ハルトヴィン=ミュロンドか……』
ミナトは二人の会話に耳を側立てる。
「ルガリア王国ウッドヴィル公爵家の一行が到着したとのことだ……」
俯きつつ独り言のように呟くのは第一王子であるバルナバス=ハルトヴィン=ミュロンド。その姿は青白いという印象を与える痩せぎすの第二王子や細身とはいえ中肉中背と表現できる第三王子とは比べものにならないほど背も高く引き締まったその五体は筋骨隆々で逞しい。金髪碧眼は他の王子達と同じだが顔つきは厳ついという言葉より精悍といった言葉が相応しく、全身に武人としてかつ為政者としての威厳を纏っていた。
『確かに次期皇帝と言われたら納得しそう……』
ミナトがそんなことを考えていると、
「全てはバルナバス様の思惑通りといったところですかな?」
ニヤリと笑ってリュームナス教皇がそんなことを口にする。すると第一王子が、
「ああ、ウッドヴィル公爵家の連中がジョーナスを連れて行ってくれる。なんとも都合の良いことだ……」
「御意。既に神殿騎士の精鋭は国境の街ファナザにて待機しております」
「それでよい……、ヒルデベルドの奴が熱を上げていた研究とやらがこうも役に立つとはな……」
「あのお方も生き残るのに必死なのですよ。私も俄には信じられませんでした。まさか二千年前にクラレンツ山脈内で猛威を振るったアンデッドの封印を解除し使役するとは……」
『はい!?』
そんなミナト発した心の声など聞こえるはずもなく、
「それはこの私も同様だ。だがあの研究結果を見せられてはな……」
「そしてジョーナス様を亡き者にしてそれをアンデッドの仕業とする……」
「よさぬか!」
「これは私としたことが……、ついうっかりと口が……」
叱責されそう返すが教皇は笑みを浮かべたままである。
「明日からはまた忙しくなりそうです。そうなる前に……、私は今宵、美しき迷える信者に教えを授けるとしましょう。ブリュンゲル枢機卿だけでは荷が重いそうですから」
「ふん……。悪趣味もほどほどにな」
そこで映像がぼやける。ここまでが同時にピエールが送ってきた内容だった。
『シャーロット、二千年前にクラレンツ山脈で猛威を振るったアンデッドって……』
『間違いなくフィンたちね』
『封印を解除して使役するとか言ってなかった?』
『そのつもりだったんじゃない?封印を解除した神殿騎士は『裁きの光』で消滅したし、ミナトがテイムしたけどそのことはまだ知らないみたいね』
『フィンたちを使役って奴らにできたのかな?』
『ミナト!バカを言っちゃいけないわ!フィンたちは魔王のスキルにすら抗ったのよ?この程度の人族に使役なんて出来る訳がないわ!ミナトだからテイムできたの!』
『うむ。マスターほどの魔王でなければフィンはテイムできまいよ』
『ん!さすが最強の魔王様!』
デボラとミオの言葉にぐったりするミナトだが、
『やっぱりジョーナスさんは狙われているのか……、さっき話だと神殿騎士におれ達を襲わせてそれをアンデッドの仕業にするって感じだったけど、なんでそんな回りくどいことを……?』
神殿騎士の精鋭に襲わせるなら神聖帝国内であればなんとでも言い訳ができる筈なのだが……。
『明日になればもっと何か動きがあるだろう。教皇もヤル気だったし……』
『皇帝はまともな気がしたけどこの国ってどうなっているのかしらね』
『うむ。天罰というやつが下るのだろうな』
『ん。自業自得!』
そんな話をしていると、
「お待たせしました。皆様を本日お休み頂くお部屋へとお連れします」
ようやく案内役の神官がやってきた。
「おひとり様ですね。こちらのお部屋をお使い下さい」
そう言われながら一室へと案内されるミナト。
「うふふ。今日は一緒ね?」
「うむ。お手柔らかに頼むぞマスター!」
「ん。いっしょ?」
「いっしょデス〜」
三人の美女だけでなく幼女の姿のピエールまでもが一室内に顕現する。その光景に長い夜を覚悟するミナト。
そうしてその夜……。
ミナトが楽しく過ごしている一室からやや離れた……、神殿内でも高位の者達が暮らしている一画で……、大きな雷鳴が二回轟いたのであった。
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