第554話 翌朝、ミナトの傍には……

「ミナト殿……?そのご様子は……、だ、大丈夫なのか?」


「何があったのですか?」


 カーラ=ベオーザとA級冒険者のティーニュが怪訝な表情となるのも無理はない。


「あは……、おはようございます……、い、いえ……、特に何かがあった訳ではアリマセン……。ホラ、コノトオリ、イツモノヨウニゲンキデスヨ?あはは……」


 二人の前に立つのは枯れ枝とボロ雑巾を連想させるほどにヨレヨレのミナト。頑張って歩いているようだがその腰は場所が定まらないかのようにふらついている。その背後にはいつものようにシャーロット、デボラ、ミオがいた。


「ま、まあ、ミナト殿が大丈夫というのであれば問題ないのであろう!皆の者、出立する!先ずは第三地区にいる者達と合流する!明日には帝都グロスアークに到着だ!気を抜くなよ!」


 カーラ=ベオーザの号令と共にウッドヴィル公爵家一行は移動を開始する。神聖帝国ミュロンドの中心である帝都グロスアークは国境の街ファナザから一日のところに位置していた。一国の中枢にしては国境から近すぎるようにも思えるがファナザが国境を接するのはクラレンツ山脈の向こうにあるルガリア王国のみである。昔より細い街道しかなく剣呑な魔物が多く棲むクラレンツ山脈を越えて軍を移動させることは困難とされているため帝都の位置は防衛の意味で妥当とされていた。


『本当にバレないものなんだ……』


 一行が移動を始めたところで心の中でそう呟くのはミナトである。


『さすがミナト!あなたの闇魔法は最高よ!大丈夫?ほら、しっかり歩いて!』


 シャーロットはミナトの背後を歩いているはずだがミナトの右側から念話が届く。


『うむ。今回は全てシャーロット様が原因だな!ナタリアたちに何もさせんとは……』

『ん。シャーロット様が悪い!独占しすぎ!』

『ふよふよ』


 デボラとミオもミナトの背後にいるはずなのだが、左からデボラ、背後からミオの念話が聞こえてきた。ピエールは今日もミナトの外套である。


『なによ二人とも!しょうがないじゃない!思った以上にあの男が不快だったの!なんか嫌な匂いがしてたでしょ?それにあなた達だってきちんと楽しんでいたじゃない!』

『うむ。しかし我はマスターを独占したり、あそこまで激しくしたりはしていない。アースドラゴンたちともきちんと協力してだな……』

『ん。ボクも!ボクも!』

『ぐぬぬ……』


『分かった……、分かったからそんなに引っ張らないで!ほ、ほんとうに今は踏ん張りが効かないんだって……、お、おねがい!オネガイシマス!』


 ミナトの念話が響く。周囲の者は全く感知できていないが現在のミナトは右腕にはひしっとシャーロットが抱きついており、左腕はガッチリとデボラにホールドされ、背中にミオをおんぶというか張り付かれている状態であった。


 ミナトの【闇魔法】である絶対霊体化インビジブルレイスが絶賛発動中である。ミナトは自分以外の自信に触れている三人の美女を霊体レイス化して連れていた。


【闇魔法】絶対霊体化インビジブルレイス

 全ての音や生命反応を感知不能にする透明化に加えて霊体レイス化を施せる究極の隠蔽魔法。対象は発動者と発動者に触れておりかつ発動者が指定した存在。発動と解除は任意、ただし魔法攻撃の直撃でも解除される。追加効果として【物理攻撃無効】付き。ま、あると便利でしょ…。


 それではミナトの背後を普段とは異なる様子で静々と歩いているシャーロット、デボラ、ミオは何かというと、昨日の夜にシャーロットが持ち込んだ人形……、ファンタジーの世界でいうところの自動人形オートマタというやつである。


 シャーロットによると魂を中心に魔力で体を構成する作り物デコイの魔法や、見た目が無骨となるゴーレム以外の方法で人型を造るというのは難しいらしい。


 だがバルトロス教の神殿騎士であるブランディルが連れていた作り物デコイの魔法で動かせる人型の魔道具は人族そのものに見えた。ミナトたちはバルトロス教が使用していたその人型の魔道具と人族とを見分けることができなかったのである。


 シャーロットはその魔道具に著しい不快感を覚えたらしい。


 あの人型の魔道具は漆黒のスケルトンブラック・スケルトンのフィンが率いる黒薔薇騎士団ブラック・ローズの封印を解除した際に発動した裁きの光によって消滅したが、シャーロットの見立てでは人族を素材にしていた可能性が高いという。


 そこでシャーロットはそんな邪道に手を染めることなく作成できる人型の人形を目指そうと思ったのだとか。そうしてアースドラゴンに製作協力を依頼していたらしい。


『ゴーレムの技術をベースに素材はアースドラゴンにお願いして人工のゴムをベースに作っているの』


 得意気に最高の笑顔でそう紹介されたが、瓜二つといえるその完成度にミナトは驚くばかりであった。


 ちなみにアースドラゴンさんたちをこちらに呼び寄せたのはシャーロットの魔法らしい。


『ふふ……、ミナトの転移テレポほど使い勝手はよくないけど召喚魔法の応用よ!』


 にっと笑う美人のエルフの魔法に改めて驚愕させられたミナトであった。


 そうしながら一行は第三地区にいる騎士やポーターたちと合流するため、第二地区と第三地区との境界である城壁に造られた城門へと到達する。


「グフフ……、ベオーザ卿、おはようございます。今日も素晴らしい天気ですね。グフフ……」


 数人の神殿騎士を従えつつ、イヤらしい笑みを浮かべるでっぷりとしたシルエットが一行を出迎えた。纏っているのが神官服らしいという事実だけがその男がバルトロス教の聖職者なのかもしれないことを物語っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る