第555話 出立の一幕

 早朝の朝日に照らされる第二地区の城門前。


「グフ……、お見送りをさせて頂ければと罷り越した次第にございます。ウッドヴィル公爵家の皆様に神のご加護がありますよう……、グフフ……」


 言葉遣いは聖職者のそれであるが、イヤらしいという言葉以外では形容できないほどの笑顔を顔面に浮かべてそう言ってくるのは神聖帝国ミュロンドにおける西側国境の街ファナザの管理を任されているというでっぷりと肥え太った神官服のおっさんである。


 どうやら建前としてウッドヴィル公爵家一行の見送りに来たらしいが、その目はシャーロット、デボラ、ミオ……、その三人の美女を形取った自動人形オートマタを見るために忙しなく動き続けていた。


 昨日から続くそんな男の態度を快くは思っていないだろうがそれでも相手はこの街の統治者である。カーラ=ベオーザが代表して応対する。


 何やら話しているおっさんとカーラ=ベオーザを眺めつつ、ふとミナトは思う、


『名前も知らないあの人って実は体格が良くて笑顔が気持ち悪いだけで純粋にバルトロス教を信じているだけの人って可能性も……?』


『ありえないわね!』

『うむ。それは天文学的な確率だと思うがな』

『ん。ボクもデボラに同意!』


 ミナトのふとした思いをバッサリと斬る右腕と左腕と背中にくっついている霊体レイス化した三人の美女。


『もしそうだったら私たちの人形に何もしないから何も起こらないでしょうね。今夜にでも結論が出るんじゃない?』


『何も起こらないでほしいけどね』


 全く期待していないトーンでシャーロットにそう返すミナト。


 そうしてカーラ=ベオーザとの会話を終えた神官服のおっさんがミナトの背後にいる三人へと向き直った。


「我等の神は祝福しておられます。さあ、共に神の教えを学び、この世界の平和を祈ろうではありませんか!ギュフフ……」


 するとミナトに背後にいた三体の超美形な自動人形オートマタがするすると前に出てミナトへと振り返った。


「おせわになりました……」

「うむ。さらば……」

「ん。ばいない……」


 自動人形オートマタは最低限の行動ができるとシャーロットは言っていたが、普段のシャーロットたちをとてもよく知っているミナトから見ると違和感がハンパない動きだが、


「ミナト殿……?」

「ミオさん……?」


 カーラ=ベオーザとティーニュが驚いてそう呟く。さらに元暗殺者兼執事のガラトナさんは怪訝な表情を浮かべ、騎士達も動揺しているらしい。


「ミナト殿!そなたはこれでよいの……」


 カーラ=ベオーザがそう言おうとして固まる。一瞬だけミナトがもの凄く黒い笑みを浮かべたのだ。ティーニュとガラトナもそのことに気付いたらしく沈黙する。


 そうしてウッドヴィル公爵家の一行は第二地区を後にし、第一地区で宿泊した騎士やポーター達と合流。そのまま国境の街ファナザを出て帝都グロスアークを目指すのだった。



 その日の午後……。


「グフフ……、ブリュンゲル枢機卿もお元気そうで……、グフフ……」


「ヒムリーク枢機卿!このようにしてファナザから連絡を頂けるとは!どうされましたのかな?」


「グフ……、実は神の教えに導かれた三人もの信者を得たのです。それはもう……、見事なもので……、見目麗しいエルフとこれまた美しい少女もおりまして……、グフフ……」


「おお!それはそれは……。教皇もさぞお喜びになられるでしょう!それでは一人はファナザの街であなたが神の教えを授けるのですね?」


「そうして頂ければ……、ジュル……」


「分かりました。それではすぐにでもそのエルフと少女を帝都へ。神のご加護があらんことを……」


「グフ……、神のご加護があらんことを……、デュフフ……」


 シャーロットがどこまで意図したのかは分からない。だが何もしなければ純粋に美しいだけの人形……、シャーロットとミオの人形は期せずして帝都グロスアークへと送られる。


 そしてその夜……、国境の街ファナザに凄まじい落雷があったらしい。それはまた別のお話であった……。

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