第553話 まるで絵に描いたような……
『これが絵に描いたような光景ってやつだよね……』
心の中でそう呟くミナトの視線の先。
そこでは三人の美女を前に一人のでっぷりと肥えたおっさんが下品……、というか下劣という言葉が相応しいくらいのニヤケ顔で何やら熱心に話している。
『おっさんが着ているのって神官服だよね?あれがこの街のトップ……。やっぱりバルトロス教の偉い連中がそういった地位に就くのかね……』
統べる者としての矜持も威厳も感じさせることなく美女たちを前にしてだらしなくニヤけるだけのおっさんに不快感がマックスのミナト。その気になれば
いっそのこと【重力魔法】の
『ミナト、心配しないで!ここは私たちに任せてちょうだい』
そうシャーロットが笑顔でミナトを制したためだ。
【重力魔法】
攻撃系極大重力魔法。触れた者だけに作用する小型で超高質量かつ超重力の物質を高速で放ちます。触れた者はその物質に飲み込まれ二度と出てくることはできません。生物のみに使用可能。ある程度の質量がある無生物や他の魔法が触れた場合、何ごともなく消滅するので遠距離からの使用には注意が必要です。躰に纏った結界や衣服でも消滅するので必ず直に当てられるよう使用しましょう。
時間は少し遡る……。
国境の街ファナザの第二地区と第一地区を囲む城壁内の検問所に到着したウッドヴィル公爵家の一行。一行を率いるカーラ=ベオーザは検問所の騎士にルガリア王家とウッドヴィル公爵家からの書状を提示し、この来訪は両国が合意しているものであることを告げた。
そうして手続きは滞りなく進み全員がスキルもしくは魔法を確認される段となる。
ここまでは特に問題などは発生していない。
スキルや魔法の確認は訓練場のような開けたスペースで頭上に設置された魔道具の下に移動しスキルや魔法を発動するというものだ。
カーラ=ベオーザを始めとするウッドヴィル家の騎士達は剣の使用に関するスキルを発動、どうやら騎士にとっての代表的なスキルがあるらしい。
ウッドヴィル公爵家の執事兼元暗殺者らしいガラトナさんはナイフの投擲を披露し、A級冒険者のティーニュは普通の柔らかい
この段階でもまだ問題は発生していない。
そうしてミナトたちが登場する。ミナトは心の中で小さく『
【眷属魔法】
極めて高位の眷属を従えるという類稀な偉業を達成したことによって獲得された眷属魔法。レッドドラゴンを眷属化したため取得。
その後、シャーロットが
「グフフ……、素晴らしい!実に……、実に素晴らしい。今日ほど私は神の思し召しに感謝した日はありません!まさに美の極致!神はあなた達に語りかけました!さあ!この地で永遠に神へとその祈りを捧げようじゃありませんか!グフフ……」
そんな言葉と共に登場したのが肥え太った巨漢にいやらしいニヤケ面を張り付かせた壮年と思われる男性。この街の管理を任されているという一応はバルトロス教の聖職者らしいおっさんであった。
どうやら隣国かつ大国であるルガリア王国の二大公爵家の一つであるウッドヴィル公爵家による一団が到着したとの報を受けこちらにやってきたということらしい。
体型のことは別にどうでもいいミナトであるが、
『シャーロットとデボラとミオを見る視線がいやらしさ以外を感じさせないくらいに気持ち悪い。こんな典型的な奴が登場するなんて……』
その様子に不快感がマックスとなって現在に至るミナトである。
現在進行形で聖職者のおっさんは熱烈にシャーロット達を口説いている。
断片的に聞こえてくる内容を繋ぎ合わせると……、『自分は国境の街を預かるほどの権力者だから自分と共にこの街で暮らせば冒険者をするよりもずっといい暮らしができる、というかさせてやる、そのかわりにグヘヘ……』といった異世界あるあるな内容だ。
ちなみにミナトは、
『ミナト、心配しないで!ここは私たちに任せてちょうだい』
という念話を送ってきたシャーロットの笑顔がかなりの黒い笑顔であったことに気がついていた。現在、シャーロットはデボラとミオと共に興味深そうな様子でおっさんの話を聞いている。なんならちょっと熱っぽいような視線までもおっさんへと向けているようだ。
しばらくして……、
「素敵……、こんな私がそんな素敵なお誘いを頂けるなんて……。こんな幸せなことがあっていいのでしょうか……。本当にありがとうございます。私でよければ謹んでお受けしますわ」
「うむ。我のような粗忽者にそのような温かい言葉をかけて頂けるとは……。我の心は歓喜に打ち震えております。この街であなたと共に過ごせるこれからの日々が待ち遠しくてなりません」
「ん。美味しいものいっぱい!とっても楽しみ!」
シャーロット、デボラ、ミオは国境の街ファナザで暮らすことを決断していた。驚きの行動に契約違反とでも言いたげなカーラ=ベオーザをミナトは視線で黙らせる。ティーニュは何かを察したらしくフードの下で沈黙していた。
そうして満足げな聖職者だったが、そこでシャーロットが……、
「私どもはパーティを組んでいます。解散することに問題はないのですが、後腐れをなくすためこれまでの蓄えについて分配する一晩を頂けないでしょうか?」
そう願う。潤んだ瞳のシャーロットに懇願されてそれを断ることができる男など存在するはずがない。少し考えれば無茶苦茶な展開になっていることに気付くはずなのだが、シャーロットたちの美しさに目が眩んだ聖職者のおっさんは翌日第一地区にある自身の屋敷へ来るよう伝えてその場を後にする。ミナトには周囲の騎士から見下すような哀れなものを見るような視線が集中していた。
そうして微妙な空気を携えたまま今晩の宿に到着するウッドヴィル公爵家の一行。その夜……、ミナトたちに割り当てられた大部屋にて……、
「あれ?なんでアースドラゴンさん達がここに……?シャーロット!?それって人形……?あ、シャーロットだけじゃなくてデボラとミオの人形も?って、え!?触ると柔らかいんですけど!?そして動いた!?今動いたよね!?」
目の前のちょっと信じられない光景にミナトが驚きの声を上げる。
「ふふん。いい完成度でしょ?簡単な会話もできるのよ。この子達にあることををすると……」
真っ黒い笑顔のシャーロットがそう言ってくる。
「……あることををすると……?」
おそるおそる聞き返すミナト。傍にいるデボラもミオもイイ笑顔になっている。
「人形が爆発してとんでもない威力の雷撃に襲われることになるわね!」
絶世の美貌を湛えるシャーロットはとてもイイ笑顔でそう答える。そして驚愕して立ち尽くしているミナトの右腕に抱きつくと、
「今日はこれから皆で王都に戻らない?あのキモイ男のことを忘れさせて欲しいのよね」
ものすごく潤んだ瞳で言ってくる。その美しさと魅力は桁違いである。
「うむ。今夜は大きなベッドで寝たいものだ」
デボラがミナトの背中に抱きつく。大きな二つの感触がヤバい。
「ん!ボクも!」
ミオが飛びつくように左腕に抱きついてくる。
そんな三人に加えて熱い視線を送ってくる人形のために集まった複数のアースドラゴンさん……。当然漏れなく全員ナイスバディの美人さんである。
「あはは……」
色々あった今日一日とこれから始まる長い夜を思って力なく笑うミナトなのであった。
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