第551話 前途多難

「街道から見下ろした時から違和感があったけどこれはさすがに……」


 神聖帝国ミュロンドにおけるルガリア王国との西側の国境を接する街ファナザ。その街並みを前にしてミナトがそう呟く。


 ピエールによる無双によりウッドヴィル公爵家一行は魔物からのダメージをほぼ受けることなくクラレンツ山脈を越えることに成功した。一行の中にかつてクラレンツ山脈越えを経験した騎士がいたが彼曰く『この魔物の出現率の低さはさすがに異常』とのことである。ただそれを聞いたカーラ=ベオーザはこの状況を僥倖とし、帰路でも警戒は怠るなという指示に留めた。


 そうして魔物との数えるほどの戦闘を経て一行は無事に国境の街ファナザへと到着する。入国を兼ねて街に入るにあたり城門で検査があったがクラレンツ山脈越える者は少ないため行列もなく、ルガリア王国における二大公爵家の一つであるウッドヴィル公爵家の一行だと分かるとあっさりと入国が認められた。


 そして街へと入ったミナトの一言目の感想が先の呟きである。


「違和感……、確かに全部同じ色だし、似た形の建物しかないって感じかしら?そしてちょっと小さくて活気も少ないかしら?」


「うむ。何らかの規制があるのかもしれぬな。完全に同じではないが使える色、建物の形式や大きさが制限されているといったところか……?」


「ん。マスターの言葉に賛成。何か住みにくそう。王都はもっと自由」


 シャーロット、デボラ、ミオの三人もミナトと同じく街並みに違和感を覚えたようだ。ちなみにピエールはミナトの春物風な薄手の外套になっている。この国の国教は魔物の存在を許さない。無用なトラブルを避ける意味でもデボラたちの正体を明かすことは避けたいミナトである。


「この独特の街並みが気になりますか?」


 そう声をかけてきたのはA級冒険者のティーニュ。以前からルガリア王家や公爵家の護衛として頻繁にミナトのBarへは姿を見せており、護衛にも関わらずお酒を楽しんでゆく常連さんであり、ミオから魔法を教わったり、最近はロビンやファーマーさんから割と本気で鍛えられている人物であったりする。


 そんな彼女はいつも通り動きやすさを重視しているにも関わらず修道士を思わせるような装いにフードを目深に被っている。


「この街並みこそ国教であるバルトロス教の教えの一つとされています。この画一的な地区は特別なスキルや魔法の才を持たない方々が暮らしている地区ですね」


 ティーニュの言葉に、


「だとすると……、山から見えた奥の方にあるもう一つの城壁と豪華な街並みって……」


 ミナトがそう呟き、


「ご想像の通りです。国が認める何らかの特殊なスキルや魔法の才があるものが住む地区ですね。本日の私たちの宿もそちらの地区にありますわ」


 ティーニュが説明してくれる。


わたくしが以前ここを訪れた時と同じであればあちらの地区へは簡単には入れないかと思います。地元民であれば通行証がありますが、わたくし達の場合、たとえ公爵家の一行であっても各自の魔法を確認させられるかと……」


「そこまで拘るんだ……」


「聞いた話ではここにあるスキルや魔法の才を持たない方々の住居や商店までがこの街の防壁を兼ねているというものもあったくらいですから」


 淡々とした口調で教えてくれるティーニュ。フードでその表情を窺い知ることはできないが、


『ん。マスター、ティーニュは怒っているみたい』


 おそらくティーニュと最も付き合いのあるミオが念話でそう教えてくれた。ティーニュもこの国には違和感を覚えているらしい。


『もうこの国が嫌になってきた……、こんな街……。何事も起きませんように!』

『ミナト!それってミナトの世界でいうってヤツじゃないの?』

『うむ。まさに!』

『ん。そのとおり!』

 ふよふよ……。


『あ……』


 ついに到着した神聖帝国ミュロンド。前途多難な予感を覚えるミナトであった。

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