第545話 漆黒のスケルトンの名前
「シャーロット……、これって……」
ミナトがシャーロットへ呟くように声をかける。
その表情は既に何かを諦めたかのようで……。そんなミナトの眼前にはうっすらとした光に包まれるアンデッド騎士団が跪いていた。
「もうテイムしかけている……、というかテイムしているわ。このアンデッドたちはあの魔王のスキルにも影響されなかった……。それほどまでに自己を確立しているアンデッドたちをテイムすることができるなんて……」
ピエールの時もそうだったが今回のテイムに関してもシャーロットはかなり驚いているようだ。
二千年前の魔王は全ての魔物をその意思に関係なく操ることができるスキルを持っていたという。そのスキルは強大で世界の属性を司るドラゴンも例外ではなく魔王のスキルの影響を受けた。そのためシャーロットはドラゴンの里にある属性の大樹を護る必要性を感じ各ドラゴンの里へと赴くことになる。最終的に大暴れをした後、
だが彼らには魔王のスキルは効かなかったそうなのだ。ここに居並ぶアンデッドたちは魔王のスキルによって魔王軍に加担させられたのではない。彼らは闘争を求めており、それを用意してくれるという魔王の提案を受け、自分達の判断で魔王軍へと加わったのだ。
「うむ。あの魔王のスキルにすら抗ったこの者たちをこうも素直に従えるとは……。これがマスターとあの魔王との器の差というものであろう!」
「ん。マスターこそ真に偉大なる魔王!」
うんうんと頷くデボラの隣でサムズアップをしながらミオがとんでもないことを言ってくる。
「ミオ……、おれは魔王じゃないと思うのだけど……、だってほらおれって魔物を従わせるスキルなんて持って……」
いつも通り否定しようとするのだが語尾がどんどんと小さくなる。なぜなら……、
「あらあら〜?シャーロット様を第一夫人とし、
『ぐふっ……』
柔らかい笑みと共にナタリアにそう言われて心の中で吐血するミナト。そんなミナトの傍でオリヴィア、幼女モードのピエール、ロビン、そしてファーマーさんまでもがうんうんと頷きながらナタリアの言動を肯定する。
「とりあえず!みんなもこのアンデッド騎士団テイムすることに関しては異論はないみたいじゃない?」
シャーロットの言葉に呼応するかのように、
「うむ。ドラゴンたちで騎士団を編成する計画は進行中だがこれほど強力な騎士団が加わるのは心強い限りだ!」
「ん。仲間は多いほうがいい!」
「
「マスターの判断に異論などある筈がありません!」
「ワタシはマスターに従いまス~」
「吾輩はよき好敵手を得ることができて満足なのだ!」
「おめでどうございあんす」
デボラ、ミオ、ナタリア、オリヴィア、ピエール、ロビンにファーマーさんまでも笑顔でそう言ってきた。
みんなアンデッドの騎士団を歓迎するらしい。ミナトは眼前で跪いている漆黒のスケルトンへと向き合って、
「えっと……、おれのことはマスター……、魔王じゃなくてマスターって呼んでくれると嬉しいかな……?」
「承リマシタ!本日ヨリ我ガ主ヲマスタート呼バセテ頂キマス。我ガ剣ト生涯ノ忠誠ハマスタート共ニ!」
跪きながらそう誓いを立てる漆黒のスケルトン。
「もうみんな立ち上がってくれないかな?おれ達は仲間で、対等な関係だからね?」
そう言うミナトだが、
「第一夫人よ」
「うむ。第二夫人だ」
「ん。第三夫人!」
「第四夫人ですね~」
「愛人です」
「二人目の愛人デス〜」
「吾輩が三人目の愛人である!」
何かのマウントをとっているのかシャーロットたちが言い募った。やはりその辺りの立場には拘りがあるようで……。その迫力に漆黒のスケルトンもややたじろぎつつ、
「ソ、ソレデハマスターノ眷属トナッタ私ニ名ヲ頂ケレバト思ウノデスガ……?」
と言ってきた。
「やっぱり……?」
そうして迎えたいつものパターンにミナトは頭をひねることになる。
『名前……、名前……、君も騎士で騎士団長なんだよね……』
しばらく考えた後、ミナトは決断する。
「フィンってどうかな?」
とある神話に出てくる騎士団長から拝借した。漆黒とは正反対といえる金髪で色白の騎士団長だったとか……。無駄な努力かもと感じてはいるが一応は男性の名前である。
そう提案した瞬間、漆黒のスケルトンの体が光り輝き、大量の魔力が溢れ出た。
「やっぱりそうなるよね……」
そう呟くミナト。ミナトの【眷属魔法】である
【眷属魔法】
極めて高位の眷属を従えるという類稀な偉業を達成したことによって獲得された眷属魔法。眷属化した存在を強化する。眷属を確認して自動発動。強化は一度のみ。実は強化の度合いが圧倒的なので種を超越した存在になる可能性が…。
「コレハ……、全身カラチカラガ溢レテ……」
漆黒のスケルトンは光に包まれつつそう呟く。体内に圧倒的なまでの力と魔力が込み上がるのを感じる。だが不思議とそこに恐怖や不快感といったものはない。
魔力の高まりと共に身体に変化を感じる。本質は同じままに存在そのものが書き換えられるような不思議な感覚。
『汝の名は?』
唐突に頭に声が響いた。女性のもので声質は穏やかである。
「何者ダ!?」
腰の魔剣の柄を握って周囲を見渡す。ここはクラレンツ山脈にある森の中。周囲にはミナトやシャーロット、デボラ、ミオ、ナタリア、オリヴィア、ピエール、ロビンにファーマーさんも居た筈なのだが周囲には誰もおらず何も見えず他者の気配を感じることもできない。
『汝の名は?』
重ねて問いかけられる。この現状はミナトが自身に付けてくれた名を問われているのだと判断した。
「私の名はフィン……。マスターであるミナト様の眷属にして生涯を懸けて仕える騎士でありアンデッドを従える騎士団長……、
輝きが収まる……。そこには先ほどと変わらない姿の
「やっぱり!?やっぱりこうなるんだね!?」
そこには美しい金髪と白い肌を湛える引き締まった肢体を持つ鎧姿の美しい女性……。その姿に諦めたようなミナトに声が響く。しかしそれだけで終わるわけではなくて……、
「!?」
ミナトが驚愕の表情となって固まる。美しい姿となった
「全員が見目麗しい女性で編成された騎士団だなんて聞いていなかったんだけど!?」
ミナトの悲鳴にも似た絶叫が夜のクラレンツ山脈に響き渡るのであった。
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