第539話 漆黒のスケルトンとエルダーリッチ

 禍々しい長剣を納刀し居合のような構えを取る漆黒のスケルトンに対峙するのは顔の横で十文字に双剣を構えるファーマーさん。


 どうやら漆黒のスケルトンはミナトに放ったあの一撃を繰り出そうとしているらしい。それは流麗と表現して差し支えない見事な抜き打ちの技で、もしミナトが踏み込んでいなければミナトは脇腹から上下に両断されていたであろう一撃である。


 あの時のミナトは自身の肉体が瓦解することも顧みず全力で身体強化を行った。その結果、漆黒のスケルトンの間合へと神速で踏み込み長剣を持つ右手を斬り飛ばすことに成功した。


『ファーマーさんはどうするんだろう?そういえばおれってファーマーさんの戦闘シーンって見たことないような……』


 未だにピクリともしない二人を前にミナトはブランデーを傾けつつそんなことを考えている。


「素晴らしいワインです〜!わたくしこんな甘くて美味しいワインは初めて頂きました〜」


「ふーむ。これがマスターの仰っていたブランデとな……。葡萄に由来すると思われるこの見事な味わいとよい香りが堪らん!この世界にこのような酒があるとは……」


 そんなことを言いつつ楽しんでいるのは既に漆黒のスケルトンと満足できる手合わせを終えたナタリアとロビン。どうやらナタリアは貴腐ワインが、ロビンはブランデーがお気に入りらしい。


「二人ともあの漆黒のスケルトンさんはどうだった?」


 そんなミナトに問いに、


「二千年前にわたくしと戦った時と比べますと〜、随分と腕を上げている印象です〜」


 ウットリと貴腐ワインで満たされたグラスを掲げながらナタリアが答える。


「あの美しい太刀筋はそのままに純粋に技量を上げた印象ですね〜。二千年前のわたくしでは少々手に余ったかもしれません〜」


 そう付け加えるナタリア。


「吾輩も同意見だ。配下と共に封印されていたという話だが、力を蓄えていたという方が正確ではないかと思う。現在の吾輩であれば問題ないが煉獄の首無し騎士ヘル・デュラハン時代の吾輩では現在の彼奴にはとどかぬとみた」


 ブランデーをゆっくりと楽しみつつロビンもそう言ってくる。


「そんなスケルトンさんの一撃をおれは……」


 闇魔法を使わず短剣で立ち向かったのはかなりの無茶であったらしいことを自覚するミナト。


「でもきっと結果的によい方に転ぶと思うわよ?」

「うむ!」

「ん!」


 シャーロットがそう言い、デボラが頷き、ミオも肯定するかのようにサムズアップを見せてくる。


「それはどういう……?」


 問い返すミナト。そんなミナトにシャーロットは黙って笑顔を返すのみ。


『何かあるのかな?』


 首を傾げるミナトである。


 ミナトたちがそんな会話をしている中でも漆黒のスケルトンとエルダーリッチのファーマーさんは互いに武器を構えて向かい合っていたのだが……、


 だが次の瞬間、激しい金属音が周囲に空気を切り裂いた。


「ファーマーさんってエルダーリッチ……、魔導士じゃなかったっけ……?」


 そう呟くミナトの視線の先では漆黒のスケルトンによる抜き打ち……、その最も威力の高いであろう切先三寸の部分に交差した双剣を打ち当て真っ向から斬撃を受け止めるファーマーさんの姿があった。


「いい斬撃だ。やだら腕上げだようだね」


 イケオジの顔にニヒルな笑みを浮かべてそう言うファーマーさんは完全に神の代理人を名乗る神父様状態である。


それでへったはずだそれと言ったはずですあんだに手加減はでぎねどあなたに手加減はできないと!」


「え!?」


 ミナトは聞こえてきた声に驚きの声をあげる。ファーマーさんの言葉が標準語に聞こえた気がしたのだ。


「ファーマーは本気ね……」


 シャーロットのそんな呟きが聞こえた気がした……。

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