第536話 甘いワインと戦闘と

「王都のマルシェで売っていたレバーパテとこの貴腐ワインは……、さすがにちょっと勿体無い気もするけど間違いなく最高だ!」


 濃い琥珀色のワインを湛えている小さめのワイングラスを掲げながらミナトがそう宣言する。


 レバーパテやテリーヌといったシャルキュトゥリ、さらにはアシ・パルマンティエといった料理を前菜として楽しむ際、当然ワインなら赤白どちらも美味しいが貴腐ワインというのも一つの重要な選択肢である。


 さすがにディケムのような高級品は選択しないがミナトも日本にいた頃は休日に訪れるビストロで時折シャルキュトゥリに貴腐ワインを合わせることを楽しんだものだった。


 そんなことを思い出しながら素早く転移テレポで王都へ帰還しマルシェに美味しそうなレバーパテを購入してきたミナト。


 ちなみに春となり物流が活発になった王都ではたくさんのマルシェに食品に限らず良い品が並べられそれを求めて多くの住民が夜の王都へと繰り出し賑わっていた。


 そうした結果、美味なるレバーパテと極上の貴腐ワインという前菜を楽しんでいる現状を手に入れたのである。


「こういう甘いワインは飲んだことがなかったけど、レバーパテとこんなに相性がいいなんて……、これは新しい体験ね!」


 シャーロットが感心したかのようにグラスを眺めて呟いている。その神妙な顔つきも見事に美しいと思うってしまうミナト。


「うむ。確かにこれは新しい体験だ!」

「ん。普通のワインもいいけどボクはこの組み合わせも好き!」

「甘くて独特の香りがクセになりそうです!」

「パテと一緒が美味しいデスネ〜」


 デボラ、ミオ、オリヴィア、ピエールもこの組み合わせは好評のようで嬉しいミナト。漆黒のスケルトンは


「コノ酒ハ就寝ノ前二嗜ムノガ一般的カト……」


 と言っていたので観戦している一連の戦闘が終った後でこの組み合わせを教えてあげようと考えている。


 アンデッドが酒を飲んだり眠ることについてはロビンの『それらがある方が人生が楽しいぞ!』の言葉を聞いてそれ以上は追求しないことにしているミナトであった。


 そうして戦闘の方はというと、


「あらあら〜?現在のわたくしを相手にここまでとは〜。二千年前のわたくしであれば少し苦戦したかもしれません〜」


 刃渡は身の丈の四倍以上、質量はもはや途方もないほど、と表現できる巨大な鉄塊……、ではなく大剣を軽々と振り回しつつそう言いながら微笑むナタリア。


「コレガ音ニ聞コエタアースドラゴンノ長殿ノ剣……。二千年前ハ剣ヲ交エル機会ニ恵マレマセンデシタガ、コレコソマサニ行幸!コノ機会ヲ与エテ頂イタマスターニ感謝セネバ!フ……、ウフフ……、ウフフフ……」


 そう呟く漆黒のスケルトンはロビンを超える豪剣であるナタリアの斬撃を流麗な剣捌きと身のこなしで受け流してはいるが、その様子はロビンを相手しているとき以上にキツそうではある。キツそうなのだがそれと同時に嬉しいのか笑みが漏れているのがちょっとよく分からないミナトであった。


 そんな光景と共に貴腐ワインを楽しんだミナトたちは二つ目のお酒に挑むことにする。


「ミナト?二つ目のお酒ってどんなお酒なの?」


 そう問いかけてくるシャーロットにとびきりの笑みを返すミナト。


「よくぞ聞いてくれました!こちらの樽です!」


 そう言ってミナトが一つの樽を指し示す。


「うむ?樽ということはウイスキーか何かなのか?」

「ん?昔の燻し酒?」


 そんな予想を述べるデボラとミオ。しかしミナトは首を振る。


「ちょっと違ってこれはブランデーなんだ!おれ達がまだ少量しか手に入れていない長期熟成したブランデー!それも百年以上もののブランデーってことになるのかな?」


 素晴らしい出合いに満足気なミナト。


 本当にここが大量の魔物が跋扈し危険と謳われるクラレンツ山脈にある森の中なのか分からないほど楽しい酒宴は尚も続くのである。

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