第533話 いつものパターン?
驚異的な身のこなしで間合いを詰めたミナトの短剣がスケルトンの右手首を握った長剣ごと斬り飛ばした。
右の手首から先を失って驚愕しているらしい漆黒のスケルトンにミナトは油断なく短剣を構える。
「闇魔法ヲ使用セズニコノ私ノ剣ヲ圧倒スルトハ……、スバラシイ……」
そう呟いて手首と共に飛んでいった長剣には目もくれずに改めて跪く漆黒のスケルトン。
「オミゴトデス!マサカコノ私ガ剣技デ圧倒サレルトハ夢ニモ思マセンデシタ。ソレデコソコノ私ト部下タチノ剣ヲ捧ゲルニ相応シイ御方デス!」
そう言って跪きながら首を垂れる漆黒のスケルトン。いつの間にはその背後にはアンデッド軍団が勢揃いしている。その全員がミナトへ恭順の意を表しているのか漆黒のスケルトンと同様に跪いて首を垂れていた。
「あはは……、上手くいってよかったよ……」
そう返すミナトだがその顔色はよくない。ミナトはその全身に強烈な激痛と倦怠感を覚えていた。
『これが身体強化の弊害ってやつかな……?想像以上にきつい……、それにこの状態じゃきっと魔法が使えない。戦いが継続していたらヤバかった……』
ミナトの正直な感想であった。
【保有スキル】白狼王の飼い主、【保有スキル】暗黒騎士の主君、そして【眷属魔法】
今にも全身が物理的に崩壊してしまうと感じてしまうほどの現状では戦闘の継続は難しい。
そしてよく見れば漆黒のスケルトンの右手首が既に復活している。ミナトは地面へと刺さっている長剣の柄を今も握って手首から先へチラリと視線を送りこのスケルトンに何らかの再生能力があることを確信する。
『さっきの一撃のみで負けを認めてくれて助かった……』
心から安堵するミナト。そうしてどうやってこの状態を回復させようかとそちらへと考えを巡らせる。ミオが治してくれるのが最善なのだが……。
「戦闘になるとは思っていたけどまさかミナトが短剣で挑むとは思わなかったわ!そして剣術で圧倒するなんて……」
「うむ。よい戦いを見させてもらった!見事な剣技でしたぞマスター」
「ん!さすがマスター!でもちょっと無茶!ボクは治す!」
「お手伝いしまス〜」
ミナトにミオからの青く優しい魔力の光が降り注ぎそんなミナトの全身をコーティングするように幼女の姿となったピエールからも虹色の魔力が注がれた。
「ありがと……」
そう呟いてぐったりとするミナト。
そんな突然の美女たちの登場に唖然としているのは漆黒のスケルトンとその配下のアンデッドたち。唖然としている理由は美女たちの接近を感じ取れなかったことにある。
つい先ほど主君と認めたミナト。彼へ無許可で近づく者があれば騎士たる者はそれを排除しなくてはいけない筈なのだ。だが美女たちに接近を許した上、本能が訴えかけたためか何もできなかった。漆黒のスケルトンはその理由を考える。
空洞であるが光を湛えているその双眸がシャーロット、デボラ、ミオ、そしてピエールを見据える。知らない容姿の美女たち……。その認識だが何かおかしい感覚を覚える。彼女たちから感じられる魔力……、特にエルフの美女から感じる魔力に覚えがある気がするのだ。
「あら?まだ気がつかないのかしら?二千年前と容姿は違っているけれど……」
そう言って漆黒のスケルトンへと視線を向けるシャーロットの全身がうっすらと滑らかな魔力を纏う。その美しいとさえ形容できるかのような圧倒的な魔法の技量と豊富な魔力量が指し示す人物とは……。
「マサカ……?」
シャーロットのその姿をしばし目の当たりにした漆黒のスケルトンが骨でしかない顔の筈なのにはっきりと驚愕の表情を浮かべた。
「
残念ながらスケルトンは全てを言いきることはできなかった。その前に錐揉み状態になりながら森の奥へと飛ばされて行ったのである。闇魔法がLv.MAXであるミナトでも反応ができないほど高速での魔法の行使である。そしてその様子を呆然と見つめるアンデッド軍団の面々。
「その二つ名で呼ぶなって言ってるでしょ!……あれ?そういえばあのスケルトンは私があの二つ名で呼ばれるのを嫌っているって知っていたかしら?」
どうやら漆黒のスケルトンにとってこの出来事は思わぬとばっちりであるらしかった。
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