第534話 そしてみんなを喚んでみる
「マサカシャーロット殿ニレッドドラゴントブルードラゴンノ長ドノマデオラレルトハ……。アノ戦イガ昨日ノコトノヨウニ思イダサレマス……」
森の奥から復活しミナトの前で全ての眷属を引っ込め単身となって跪きながら漆黒のメタリック風スケルトンがそう呟く。周囲一帯に立ち込めていた瘴気は全て消滅しクラレンツ山脈の一画であるこの森は穏やかな夕陽に照らされていた。
「確かに懐かしいわ!でもっ!私の名前はシャーロットよ!あんな二つ名は勘弁してほしいわ!」
よほどあの二つ名が嫌いらしい。怒っている姿も十分魅力的なのだがミナトはあの二つ名は決して口にはしないでおこうと心に誓う。
「ソレニシテモオ二人ニハ何ガアッタノデスカ?コノ私ト剣ヲ交エタアノ闘争ノ時ニ比ベテ格段ニ強クナラレテイルヨウナ……?サラニエンシェントスライムマデイラッシャルトハ……」
漆黒のスケルトンはデボラとミオの二千年前との違いに気付いたらしい。その上でミナトの傍でふよふよと揺れているピエールのことも脅威に感じているようだ。
「うむ。お主たちに悩まされた戦いの日々を忘れたことなどないな。そんな我はマスターテイムされデボラの名を賜った。その際に進化もしてな。今の我はレッドドラゴンの長にして
「ん。久しぶり。ボクもマスターにテイムされて名前をもらった。今のボクはブルードラゴンの長にして
『ふよふよ……』
シャーロットに続いたデボラとミオも言葉に漆黒のスケルトンは再び驚愕の表情となる。ピエールはただゆっくりと揺れている。
「マサカ
「消滅させられたいのかしら……?違うわよ!テイムしたのは私じゃないわ!ミナトよ!」
シャーロットの少々不機嫌な言葉を聞いてさらに驚愕するスケルトン。
「真ナル魔王様ガ!?シカシオフタ方トモ支配ハサレズトモシャーロット様ノ
スケルトンが発した魔法の名前にデボラとミオがフルリとその身体を震わせる。二人とも昔を思い出したのか少し顔色が悪い。
漆黒のスケルトンが言った
二千年前の大戦時に現れた魔王はいかなる障壁も無効化して魔物の魔石に直接作用することで魔王の思想のままに魔物を動かすことができるスキルを持っていた。そのスキルで暴れさせた魔物とそれに対抗した人族・亜人連合との戦いが先の大戦である。
その大戦時、シャーロットは世界に属性を司る大樹を護るため、各地の世界の属性を司るドラゴンの里へと赴き、魔王のスキルに影響を受けたドラゴンたちに
ちなみにこの
「ミナトを甘く見ちゃダメよ!ミナトのテイムは私の
シャーロットの言葉に綺麗に絶句する漆黒のスケルトン。
「ミナト!折角だから皆を喚んであげて!まとめて紹介した方が話が早いわよ」
「やっぱりそのほうがいいよね……。もう夕方だし喚んでも大丈夫かな……」
ミナトはそう返すと【転移魔法】である
【転移魔法】
眷属の獲得という通常とは異なる特異な経緯から獲得された転移魔法。魔法陣を使用することなく眷属を召喚することが可能。当然、送り返すことも可。建造物等がある場合しっかりと避けて召喚・送喚するのでそういった点は心配無用。
「あらあら〜?マスターに喚ばれてしまったみたいです〜」
穏やかでおっとりとした声色で登場したのはベージュのエプロンドレス纏った茶色の長髪を靡かせている美しい肢体を誇る長身の美女、ナタリアである。
「これはマスターの
そう言いつつ登場したのは執事風な装いに白い髪、凛々しいとも表現できる中性的な美しさを湛えた女性、オリヴィアである。
「どうやらマスターに呼ばれたらしい……。またどのようなことで吾輩を楽しませてくれるのか……」
そんな言葉で現れたのは美しい顔立ちに黒髪のロングヘア―を靡かせる、漆黒のドレスを纏ったスラリとしたスタイルの女性。『吾輩』という特徴のある一人称の呼び方をするロビンだ。
「またミナト殿に喚ばれたみたいだ」
そう言って登場するのはメガネをかけたイケオジ……。今にも顔の横で短剣を十字に構えて『我らは神の代理人』とかアノ台詞とかを言い出しそうな感じの人物こそファーマーさんである。
その光景に言葉を失う漆黒のスケルトン。そんな漆黒のスケルトンを見て喚ばれた者たちは状況を瞬時に理解したらしい。
「改めていまの私の家族を紹介するわ。レッドドラゴンのデボラ、ブルードラゴンのミオ、アースドラゴンのナタリア、フェンリルのオリヴィア、エンシェントスライムのピエールちゃん、デュラハンのロビン、そしてご近所のファーマーよ」
そうして一拍の区切りをつけて、
「そしてファーマー以外をテイムし名前を付けた張本人にして私たちのパートナーがこのミナトよ!」
そんな紹介をされてしまうミナト。漆黒のスケルトンがぷるぷると震え始める。
『大丈夫かな……』
ちょっと心配になるミナトだが、
「ちなみに私が第一夫人よ!そこは忘れないで!」
「うむ。そして我が第二夫人だ!」
「ん。そうしてボクが第三夫人!」
「かつての戦いが懐かしいですね〜。
「私はマスターの忠実なる僕であり愛人ですね」
「ワタシが二人目の愛人でス~」
「まさかお主と再びこうして出会う日が来ようとはな……。それで吾輩が三人目の愛人である!」
「ほんに懐がしい方どお会いするごどがでぎだ。元気そうで何よりだ。
スケルトンの様子などお構いなしに自分たちの立場を紹介するシャーロットたち。
すると居住まいを正したスケルトンが改めてミナトの前で跪く。
「えっと……?」
そんなミナトに、
「真ナル魔王様ニ我ガ忠誠ヲ!我ガ剣ハ真ナル魔王様ノタメニ振ルワレル!」
その声はミナトの耳へしっかりと届いた。
『ヤバい!大事なところを否定するのを忘れていた気がする……』
ここにきて慌て出すミナト。
「だから魔王じゃないんだけど……」
とりあえずそう返してみるが……、
「ソウトキマレバ酒盛リデスナ!幸イナコトニ私タチト共ニ眠リニツイタ酒ガアルハズデス!」
「え!?」
漆黒のスケルトンによる思わぬ発言に魔王と呼ばれることの訂正よりもそちらに興味を惹かれてしまうミナトであった。
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