第528話 『不死者達の霊廟』にて
「……ということで……、もうすぐ森が開けて、そこ先に目的地の『不死者達の霊廟』があるということだけど……」
既に獣道らしい痕跡すらもない鬱蒼とした森の中を進むミナトがそう呟く。そして、
『シャーロットたちも気付いているよね?』
ミナトは念話に切り替えシャーロットたちにそう問いかける。
『ええ。誰かが魔力で何かをやっているのは確かみたいね』
『うむ。だが随分と剣呑な魔力を感じる。これは人族であろうあの神殿騎士とやらの身には余るほどの力ではないか?』
『ん。よくない力の流れを感じる……』
『あまり好きではない感じデス〜』
シャーロット、デボラ、ミオ、そしてミナトの外套になってくれているピエールから次々と念話がかえってきた。
闇魔法がLv.MAXであるミナトの魔力による索敵は優秀である。その索敵能力がバウマン辺境伯が教えてくれた『不死者達の霊廟』のある場所付近で何者かが魔力を行使している様子を感じ取ったのだ。
当然、パートナーであるシャーロット、デボラ、ミオ、ピエールもその気配に気がついていた。
ただどうもタチの悪い魔力を感じているようでデボラやミオは若干顔を顰め、ピエールも不快感を表している。
注意深く歩みを進めると唐突に森が終わり、一行は開けた場所へと出た。
『これは確かに霊廟って感じもするケド……』
眼前の光景に思わず胸中でそう呟くミナト。
『インドの有名なやつより迫力が……、なんか色味もスゴいし……』
続いてそんな呟きが胸中に流れる。
そこには石造りで鈍く金色に輝く巨大な建物があった。斜面の関係で麓からは確認できないようだが本当に巨大である。
材質はどうやらオリハルコンが主に使われているらしい。左右対称に聳え立つ複数の尖塔や石造りの壁には複雑かつ力強さを感じさせる彫刻が施され、優雅という言葉より荘厳という言葉がぴったりくる雰囲気だ。
そして千年以上前の建造物でありながら風雨による劣化を感じさせないその姿はそれが魔法的な何かで守られていることを示していた。
『ちょっとお墓にしては派手じゃない?』
シャーロットがミナトの心を代弁するかのように言ってくれる。
『うむ。あの好戦的な連中の好みであろうな』
『ん。そんなところだとボクも思う』
デボラとミオによるとここで眠りについているアンデッドたちの好みらしい。
そんな『不死者達の霊廟』と呼ばれる巨大な建造物の閉ざされた正門と思われる場所に立っている人物が二人。
『神殿騎士ブランディルともう一人、ブランディルと共にいた女騎士……』
ミナトは即座に認識した。間違いなくウッドヴィル公爵領とバウマン辺境伯領の領境にある野営地でひと騒動を起こした二人である。
「おお!あなた方はウッドヴィル公爵家子飼の冒険者諸君ではありませんか?さすがは切れ者として知られるバウマン辺境伯です!この辺りの魔物がマルトンの砦に向かってしまったことは誤算でしたね。おそらくその調査の中で私の情報と動向を掴んだといったところでしょうか?」
ニヤリと顔を気味の悪い笑みで歪ませつつそう言ってくる神殿騎士ブランディル。
『どの辺が神に仕える神殿騎士なのか分からないくらいの悪人顔……、神殿騎士ってのがこういう連中ばかりじゃありませんように……、あと公爵家子飼ってのは訂正を強くお願いしたい』
ミナトがそう思っている中、
「しかしバウマン辺境伯も詰めが甘い甘い!マルトンの砦の被害がいくら大きかったといってもF級冒険者のあなた方にこの辺りの調査を任せるなんて!驚きましたか?あなた方がF級の駆け出しであることは調査済みです!」
「えっと……、マルトンの砦での被害は最小限で死者はいないし……」
何か盛大に勘違いをしているらしい神殿騎士に思わずそう反論するミナトだが、ブランディルにはミナトの言葉が届いていないらしく、
「そして何よりバウマン辺境伯はこの場所をご存知なかったらしい!我が国の研究機関が長年かけて見つけ出したこの『不死者達の霊廟』!その脅威も分からずにF級冒険者をこの辺りの調査に向かわせるなど!あなた方は本当に運が悪かった。つい先ほど準備が完了したのですよ!」
その言葉と同時にブランディルの傍にいた女騎士の全身が赤紫色に光り輝く。
「解呪の魔法?」
シャーロットが瞬時にその魔法の正体に気付く。
「その魔力行使だと人族の身を供物に捧げてこの結界を突破するつもりね?どれだけ禁呪に手を出せば気がすむのよ!それに私がその程度の解呪完了まで指を咥えて待っているわけがないじゃない!って何かしらこの違和感……」
「うむ。シャーロット様!」
「ん。あの女騎士は何かおかしい!」
シャーロット、デボラ、ミオがそう言ったのと同時に、
「マスター!
ピエールがそう指摘する。ミナトは瞬時に『王家の墓への祈り』という儀式を成功させるためルガリア王家からの依頼で王女二人と共にダンジョンとなっている王家の墓へ潜った記憶を思い出す。依頼の最中、王女誘拐を企てた者達の中に『白銀の涼風』というA級冒険パーティがおり、その連中がミナトやピエールが見破れないほどの高度な
『あの連中は神聖帝国と繋がっていたのか?』
そんなことを思いつつ、
「その女騎士が
カマをかける意味でもそう言ってみる。
「ふふ……、ただの
そう言い放ち得意気な笑みを浮かべる神殿騎士のブランディル。
『あれ?そういえばもう一体のピエールは?』
悦に浸っている神殿騎士を視界に捉えつつミナトはそのことを気にするのであった。
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