第529話 そして封印が解かれる
ミナト一行の視線の先……。
物理的に魔道具として製作され
「ふふ……、そこのエルフのお嬢さんが言った通り古来より解呪の魔法は人族や獣人の肉体と魂を供物とすることで行使可能となる禁呪でした!」
得意気な笑みを湛えながらそう宣うのは神殿騎士のブランディル。
「しかし我が神聖帝国ミュロンドは禁呪の解読に成功したのです。そうして造られたのが供物として使用できる魔道具でした。そしてその魔道具を組み込んだ人形が
その言葉にシャーロットの瞳がどうしようもない者を見る時の色へと変化する。
「解呪の魔法を研究……、いったいどれだけの犠牲が必要だったのかしら?」
ミナトは瞬時にシャーロットの言葉に意味を悟って表情を歪める。人族や獣人の肉体と魂を供物とする魔法の研究である。どう考えてもまともな実験を行なっているとは思えない。そして、
『やっぱりロクな国ではないってことか……、ってことは第三王子であるジョーナス=イグリシアス=ミュロンドはこのことを……?』
そんなあまりよくないことが頭をよぎるが、そんなミナトを見たブランディルは、
「あはは……、どうです?この素晴らしい魔法技術は?羨ましいですか?ああ!ご安心下さい!あなた達がルガリア王国へと招こうとしている我が国の第三王子はこういったことは何もご存じありません!ですからあの無能を招いても我が国の機密は手に入らないのであしからず!」
そんなことを言ってきてくれた。
どうやらミナトの複雑な表情の原因を神聖帝国ミュロンドの魔法技術に対する畏怖か何かと勘違いしたらしい。
第三王子であるジョーナス=イグリシアス=ミュロンドが神聖帝国ミュロンドの裏の側面と無縁であるというのであれば、
『心配事がなくなった……?いや、ジョーナスさんって優秀ってことだから察してはいたりするのかな?とりあえずその辺りの話よりアンデッドのことが先か……』
そんな心の声が念話となったのか、
『そうなるわね!ミナト!あの魔道具を壊しても壊さなくても封印は解ける。アンデッド達と一戦交えるわよ!』
そんな念話がシャーロットから返ってきた。
『うむ。あの頃は手を焼いたが今の我やミオはマスターのスキルで進化しているからな。そうそう引けを取るものではないぞ!』
『ん。戦闘準備!』
『ワタシも戦いマス〜』
デボラ、ミオ、ピエールからも念話が届く。
そして人形から発せられる赤紫色の光が最高潮に達しようとしたその時、
「なに!?なにが起こった!?足が!私の足がああああ!」
そんな絶叫と共に神殿騎士のブランディルが仰向けに倒れる。見ればブランディルの両足が膝下から切断さられていた。切断された足先はイヤな音を立てながら溶け既に原型をとどめていない。
『マスター!お久しぶりデス〜!そしてきっと大丈夫デス〜!』
そんな念話と共にふよんふよんと弾みながら虹色の球体がこちらへとやってきた。
「ピエール!」
思わずそう呼びかけるミナト。ブランディルに貼り付かせたピエールから分裂したもう一体のピエールである。帰還したピエールはミナトの外套の姿となっているピエールに瞬時に吸収された。
「マスターへの報告もありますガ、その前にシャーロット様!」
分裂した一体から情報を得たピエールが話す。
「なにかしら?」
「この封印には罠がありマス!解除と同時に周囲一帯へ攻撃が加えられる仕組みデス!強力な光魔法デス!結界ヲオネガイシマス!」
どうやらもう一体のピエールは事前に封印を解析していたらしい。
「強力な光魔法……、分かったわ!みんな!私の近くに!」
ミナト、デボラ、ミオが従い、その周囲に結界が張られる。かなり強力な結界をシャーロットは選択したらしい。凄まじい魔力を湛える結界だ。
「ピエール?大丈夫と言っていたのはその罠のこと?」
ミナトの問いに、
『チガイマス!』
その回答にミナトが首を傾げると、
『アンデッドのことデス〜。ア、封印が解けますネ〜』
詳細説明を中断したピエールの念話がミナトに届くのと同時に赤紫色の光が消え、大きなガラスが砕け散るような音が周囲へと鳴り響く。そして霊廟の正門かと思われた門が徐々に開きそこから光が溢れ始めた。それを見たシャーロットが顔色を変える。
「間違いない!あれは光魔法の『裁きの光』。あんな強力な魔法を罠に使うなんて……。来るわ!みんな目を閉じて!」
結界へさらなる魔力を込めるシャーロットの言葉にミナトは視線を正門から外して目を閉じる。閉じる直前視界の端には眩いばかりの光があった。
「バカな!?この私がこんなところで……」
そんな神殿騎士からの最期の声が耳に届いた気がするミナトであった。
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