第522話 美しい顔に好戦的な笑み
ミナトたちの視界に飛び込んできた光景、それはマルトンの砦の東側、つまりクラレンツ山脈から降りてきたであろう魔物が砦の城壁へと群がっている光景だった。今現在も城壁の上から弓兵が弓矢で魔物を迎撃している。さらに
「バウマン様、砦が……」
驚きつつカーラ=ベオーザがバウマン辺境伯であるフレデリック=バウマンに話しかける。
カーラ=ベオーザの声色が多少落ち着いているように聞こえるのは、魔物の数がそこそこであること、ゴブリン、コボルト、オークが主体でそれ以上に強力な魔物の姿が認められないこと、そして迎撃の様子に余裕が見られるからだろう。
「ここで我らも加勢すれば大した損害もなく魔物に群れを殲滅できるのではないでしょうか?」
有利に見える戦況からか落ち着きを見せつつそう提案するカーラ=ベオーザだが、
「おかしいです……。私はそんな報告を受けたことはありません……。やはりおかしい、そして気に入りません……」
対照的にバウマン辺境伯は鋭い視線を砦とその向こうに聳えるクラレンツ山脈へと向けながらそう呟くと、ハッとしたかのように、
「ベオーザ殿!急ぎ砦へ!魔物は東の城壁を越えていません!西門から入れます!砦へ合図を!」
その言葉と同時に心得たかのように側近と思われる騎士が弓矢を取り出し、空に向かって矢を射った。同時に大気を切り裂くように甲高い音が放たれた矢から鳴り響く。
『確か
落ち着いてそんなことを考えるミナト。こんな時も【保有スキル】泰然自若は効果を発揮しているようだ。
すると鏑矢の音に呼応するかのように砦から法螺貝を吹いたときのような重低音による合図が聞こえてきた。
「行きますよ!私に続いて下さい!」
そう号令をかけるバウマン辺境伯。
「バウマン様!?一体どうしたのです!?」
カーラ=ベオーザがバウマン辺境伯に問いかける。
「私が辺境伯に任ぜられてから十年以上経ちますが、あれほどの数の魔物が……、それもさして強くもない魔物があれほど山脈から降りてきたという報告は一度もありません!クラレンツ山脈の魔物は山脈に通された街道で通行者を襲うのです。山脈から降りてくることはまずありません!クラレンツ山脈で何かが起こっています!もっと強力な魔物が降りてくる可能性もありますから、早急に砦に入り状況を確認しましょう!」
辺境伯の説明に頷いたカーラ=ベオーザが、
「バウマン様に続け!これより砦まで駆ける!」
その言葉で全員が動き出す。それと全く同じタイミングで砦から大きな声が響き渡った。
「ワイバーンだ!ワイバーンの群れを確認!!総員!直ちに対空装備を!毒消しを忘れるな!そして死ぬなよ!」
「山から新たな魔物の一団を確認!オーガ!多数!奴らは城壁を登る可能性がある!城壁の魔法部隊では足りない!東門を開けて打って出る!!だが犬死には許さんからな!」
どうやら強力な魔物が姿を現したらしい。
『ワイバーンとオーガって一体でもB級上位のパーティ複数が必要じゃなかったっけ?ちょっとマズいね……』
『ミナト?』
『うむ』
『ん?』
ふよふよ。
仲間の視線がミナトに集まる。そしてミナトの答えは決まっていた。
「お節介かもしれないけど、カーラさん達はおれ達の力を知らないわけじゃないし……、とりあえずワイバーンとオーガは斃そうか?」
その言葉にミナトのシャーロット、デボラ、ミオの三人がその美しい顔に好戦的な笑みを浮かべるのであった。
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