第521話 マルトンの砦
バウマン辺境伯領の領都イースタニアを出発して五日、ウッドヴィル家の一行は当初の予定通りクラレンツ山脈の入り口であり国境の砦を兼ねているマルトンの砦まであと少しのところまで来ていた。
「あの丘を越えればマルトンの砦ですよ」
馬上からにこやかにそう言ってくる騎士服を纏った細身の男性。
眼前に丘があるためそのすぐ向こうにあるという砦は見えないが丘のさらに向こうには峻厳な山々が聳えていた。
『あれがクラレンツ山脈……。何事もなく越えれたらいいのだけど……』
心の中でミナトが呟く。そしてちらりとその視線を先ほどの声の主へと向けた。
ミナトの視線の先でイースタニアから一行に同行している人物が、ミナトたちも実力を認める選りすぐった数人の騎士を伴っているバウマン辺境伯その人である。
隊を率いるカーラ=ベオーザからの話では、バウマン辺境伯は神殿騎士ブランディルが起こした今回の騒動を神聖帝国ミュロンドへ向かうウッドヴィル家の一行への妨害行為と見做したそうだ。事態を重くみた辺境伯はすぐさまマルトンの砦までの同行を決めたという。
辺境伯によると領都イースタニアでは教徒たちが暮らしてもいるバルトロス教の教会は常に監視下に置かれているとのことだ。今回の神殿騎士ブランディルのように新しく送り込まれてくる者への監視は限界があるが、教会を出入りする者に関しては常に監視の目が光っている。
ちなみにそんな監視の目が神殿騎士ブランディルの教会への出入りを確認した。ウッドヴィル家一行よりも早くに領都イースタニアを出てマルトンの砦がある東へ向かったことも把握済みだ。
当然、バルトロス教の関係者もこのことには気付いているが……。
そんな状況を鑑みてバウマン辺境伯はバルトロス教の関係者がウッドヴィル家一行への更なる妨害をするのであれば監視の目が厳しい領都イースタニアではなく、マルトンの砦あたりではないかと考えたのである。
「マルトンの砦辺りでの妨害というと、なんらかの方法でクラレンツ山脈の魔物をけしかけるというのが簡単で効果的です。もしそういった事態が起こった場合、私がいた方が砦の騎士達がより皆さんに協力的になるはずですからね」
笑顔でそう言っていた辺境伯。辺境伯の同行を最初は断ろうとしたカーラ=ベオーザも『私が死んでも辺境伯領は揺るぎもしませんから』との言葉で折れたらしい。辺境伯によると領都イースタニアに限らず辺境伯領の防衛も運営も息子に大半を任せているから、ということらしかった。
『さて……、マルトンの砦というのはどんな砦なのか……』
すると、
『滞在するには一晩だけ。もし願いが叶うなら快適に滞在できる砦であってほしいわ』
『うむ。我もそれを希望するが砦というところに恐らく快適に過ごせる空間などあるだろうか?』
『ん。二千年前に理解している。無理』
ミナトの念話に反応するかのようにそんな念話を返してくる美女たち。
『ワタシがキレイにしますヨ〜?』
ピエールはそう言ってくれるがピエールによる掃除が必要な砦だと野宿の方が快適かもしれないとミナトも一瞬思ってしまう。
そんな念話を楽しみつつも丘を登り切る一行。眼下にはマルトンの砦が一望でき……、
「魔物に襲撃されている?」
ミナトがそう呟いた。
砦の東側……、つまりクラレンツ山脈側から降りてきたと思われる結構な数の魔物が砦の東側に設置された城壁へと押し寄せ、砦の騎士達が防衛にあたっている光景が広がっていたのであった。
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