第518話 領都イースタニアの宿
ルガリア王国の東、神聖帝国ミュロンドとの実質的な国境となっているクラレンツ山脈に面したバウマン辺境伯領の領都であるイースタニアに到着したウッドヴィル家の一行。
「ではここで解散とする!騎士団とポーター、そしてティーニュ殿は私と共にバウマン辺境伯の屋敷へ向かう。兵舎の一画を使用させてくれるとのことだ。ミナト殿の一行はアクアパレス滞在の際と同様に二日後にバウマン辺境伯邸へときて頂きたい」
城壁の門を潜ったすぐ先に設けられていた、商隊や冒険者パーティなどが馬車の荷解きをすることができるようなスペースで一団を率いるカーラ=ベオーザがそう宣言し一旦の解散となった。
ティーニュはカーラ=ベオーザと共にバウマン辺境伯へ野営地での騒動を報告するために騎士達と行動を共にする。
『A級冒険者の信頼度ってやっぱり高い……。それにウッドヴィル公爵家が信頼している冒険者ってところも信頼の証ってところかな?』
バウマン辺境伯邸へと向かうティーニュの背中に貴族の相手をさせていることに少しだけ申し訳なく思うミナト。
「その分、戦闘とかは頑張ろう……」
ミナトがそう呟くと、
「ティーニュなら慣れたものでしょ?お礼に次の野営で美味しい食事をご馳走すれば大丈夫じゃない?」
シャーロットがそう言ってくる。その傍で、
「うむ。ここは彼女に任せるべきだ。対価は……」
「ん!お城に招待して温泉とご馳走でバッチリ!」
デボラの言葉を遮るようにミオがそんなことを提案してきた。ちなみにミオとティーニュはなかなかに仲が良い。ミオがティーニュに魔法を教えることもあるし、休日には王都でスイーツ巡りなどもやっているとのことである。
「そうだね。たしかロビンとファーマーさんの特別講座は城の訓練施設でやるはずだから来てもらった時にでも楽しんでもらおうか?」
ミナトの言葉にミオがグッとサムズアップを決め、シャーロットとデボラも頷いている。
「そうすると次は私たちの遅い昼食かしら?それとも宿を探す?寝る場所は王都に戻るって方法もあるけど?」
シャーロットがミナトへその美しい顔を向けると、
「バルトロス教の件もあるし、今回はこの街に滞在したいと思う。宿を決めたらちょっと遅くなるけど昼食にしよう。冒険者ギルドのカレンさんがアクアパレスとイースタニアにあるオススメの宿を教えてくれたんだよね。アクアパレスではブルードラゴンの里に泊まったけど今回はカレンさんがオススメのところに行ってみようと思う」
ミナトがそう答えて方針を提案し、シャーロット、デボラ、ミオ、そしてピエールは全会一致でその提案に賛成する。
『冒険者なら冒険者ギルドに顔を出して街の情報とか魔物の発生状況とかを聞くのがセオリーかもしれないけどもう明日でいいよね』
そう考えるミナト。幸いカレンさんからイースタニアの簡単な地図は貰っていたのでオススメの宿というのはすぐに見つかった。
「ここが『ベビードラゴンとパペットと笑う宝石袋が夢の果て邸』?相変わらずファンタジーなネーミングだ……。なるほど料理屋さんと宿泊施設がセットという感じかな?」
「いい雰囲気の宿じゃない?食堂も人気みたいよ?」
「うむ。木の温かさを感じるな。マスターよ!昼食はあの食堂にするのか?」
「ん。イイ感じ!」
『ふよふよ〜』
カレンさんオススメの宿は天然の木材をふんだんに使用した温かみのある一階に食堂スペースがある三階建ての建物だった。
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