第509話 ミナトは確認したかった
『ミナト!それで作戦は?私があの男を消し飛ばす?』
『うむ。我が消し炭に……』
『ん。氷像にもできる!』
『溶かしましょうカ?』
ブランディルというバルトロス教の神殿騎士が連れている
『殺すのはダメかな。あのブランディルって神殿騎士はきっとおれ達……、というかカーラ=ベオーザが率いるウッドヴィル家の騎士達を監視する目的でここまで来たのだと思う。あっちの女の人も神殿騎士らしいし、ここで二人の神殿騎士が不審死を遂げたらルガリア王国の治安に問題ありとかってなって第三王子のジョーナスが出国できなくなる可能性がね……』
ブランディルという神殿騎士の一行は間違いなくウッドヴィル家の隊列を追っていた。その目的は監視であるとミナトは判断する。
たとえ不審死でなかったとしても監視役が消えるのは
『第三王子を連れて神聖帝国ミュロンドから出国する時であれば野営地の一つや二つ……、い、いや、それはダメっぽいから、ここで問題を起こすのはもっとダメだと思う』
未だ押し問答を続けているブランディルとこの野営地の責任者であるロバネス視界に捉えつつ心の中でそう呟いた後に、
『ピエール……、…………って感じでお願いできる?』
『簡単でス〜』
『シャーロットたちは………………、でどうかな?』
『分かったわ!』
『うむ。多少つまらぬが暴れるのは先に取っておくことにしよう』
『ん。戦いたかったけどマスターの言葉に従う。でも次に戦闘があればボクがヤル!』
リーダーとしてパーティメンバーであるパートナーたちへ指示を飛ばすミナト。
そうして光魔法である
「まあまあ〜、これ以上こんなところでお互いの主張をぶつけ合っても意味がありませんよ〜?それよりも日が暮れる前に野営ができるスペースをご紹介くださいませんか〜?」
そう言って話を切り上げようとしたのはヘラヘラとした笑顔のブランディル。その様子を苦虫を噛み潰した表情で睨みつけるロバネスと若干の不快感をその表情に浮かべるカーラ=ベオーザ。
「誰かこの者達を野営ができる区画へ……」
だが仕方がないと言った様子で表情を元に戻したロバネスが部下へとそう指示を出そうとした時、
ガサリ……。
野営地の外に広がる森へと続く茂みの中で何かが動いた音がした。
「これは危険な魔物です!警戒を!」
いち早く動いてそう言い放ったのはA級冒険者のティーニュ。全身に魔力を纏い最大限の警戒態勢をとる。
「テーニュ殿、この辺りにそんな強い魔物などおらぬ。そのような警戒は……」
テーニュのことも知っているらしいロバネスがそう言いつつ余裕をもって背中の大きな斧を構えようとした時、
ガサリ……。
「「「!?」」」
魔物が姿を現し、その姿を目の当たりにした者が一斉に固まる。その姿はお馴染みのスライムである……、だがその体の色は漆黒という他に表現のしようがないほどの黒であった。それはこの世界に住む者にとって最も厄介な魔物の一つとされている存在である。
「全員動くな……、あれはブラックスライム。絶対に刺激するんじゃない……。大丈夫、こちらから攻撃を仕掛けなければすぐに移動を始めるはずだ。やり過ごすぞ……。誰か本部へ行き滞在している者達へ当分の間、出入りを制限するとの命令を出せ……」
先程までの余裕はどこへやら……、あっという間に滝のような冷や汗を流しつつ小声で部下やカーラ=ベオーザやウッドヴィル家の騎士達へと指示を出すロバネス。
ブラックスライムはエンシェントスライムの次に厄介とされる魔物で物理攻撃や魔法攻撃に極めて高い耐性を持ち、酸による強力な攻撃を併せ持つ魔物である。そして群れを作る習性があるため討伐は不可能に近いとされていた。ただ好戦的な魔物ではないため刺激をせずに放っておけばいつの間にかいなくなる。エンシェントスライムと同様に気長にやり過ごすのが唯一の対策となる魔物とされていた。
ガサガサガサ……。
そんなブラックスライムが複数その姿を現す。
『さてと……、あの神殿騎士の反応は?』
ものすごく落ち着いているミナトが視線を神殿騎士へと向ける。全てはミナトの
「刺激をするな……?やり過ごす……?なにを仰っているのです?目の前に魔物がいるのであれば殲滅するのが我らの教え……。この世の不浄に神の裁きを!」
バルトロス教の神殿騎士であるブランディルがそんな言葉を発するのと同時に掲げた右手に魔力が集まる。
「ブランディル卿?何をしている!?ブラックスライムを知らんのか!?敵と見做されたらこの野営地が全滅するのだぞ!?」
「魔物に興味などありません!不浄の存在には滅びがあるのみ!」
ロバネスにそう返して攻撃魔法を繰り出そうとする神殿騎士。
『本当にどうしようもない連中なんだな……』
ここにミナトはバルトロス教を強く信じる者……、つまりバルトロス教の敬虔な信者は本当にどうしようもない連中であると認識するのであった。
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