第508話 ヤバい勧誘

 芝居掛かった声の主へとミナトは視線を向ける。その視線の先にはニヤニヤとしたミナトが好きになれない表情の男性と無表情の女性……、そしてその背後に十数人の男女がいた。


 二人の男女はミナトが見たことのない騎士服のようなものを纏っている。男性が青、女性が赤を基調にしているが基本的なデザインは同じパンツスタイルの騎士服だ。


「ブランディル卿?あなたが領都イースタニアへ視察に来られていることは伺っていたが、何故このような野営地へ?それにその者たちは?」


 そう問いかけるのはこの野営地の責任者であるだろうロバネスだ。カーラ=ベオーザが騎士団長と呼んでいたことからかつては王家かバウマン辺境伯の騎士団に所属していたのだろうとミナトは考えている。


 ただそのロバネスはブランディルと呼んだ青い騎士服の男を警戒しているらしい。カーラ=ベオーザと話していた時とは声色が随分と変わっている。またカーラ=ベオーザもこのブランディルという人物を知っているらしいが好ましくは思っていないようでその表中は固かった。


「いや〜、イースタニアだけでは我らが信じるバルトロス教の教えを広めることは困難でして〜、このように私自身が足を使い神の言葉を広めなければと考えたワケですよ〜、その結果を見て下さい!我が神の地へ赴きたいと希望される方がこんなにも〜」


 大袈裟な身振り手振りと共にそんなことを言ってくるブランディルにロバネスが顔を顰める。


「ブランディル卿!ここルガリア王国は信仰の自由が認められているがそなたの信奉するバルトロス教の布教については領都イースタニアの教会のみでと国同士の取り決めがあるはずだ!バルトロス教の神殿騎士である貴殿がこのようなことをするのは問題となるぞ?」


「私は彼等に信者になれなどとは一言も言っていませんよ〜?彼等は自ら私の言葉に興味を持ち、自発的に我が神の御座おわす地へ向かおうとしているのです〜」


「そんなことは認められない!領主であるバウマン様へ報告させてもらう!」


「それは構いませんが彼等が自分で行きたいと仰っていますからね〜。個人の移動をルガリア王国では制限できないのでは〜?」


 ヘラヘラと笑うブランディルと顰めっ面のロバネスが対立している中、


『なにそのアブナイ宗教の勧誘……、っていうかバルトロス教の神殿騎士!?ヤバい宗教だとは思っていたけどこれは本当にヤバい……』


 いきなり登場したバルトロス教の関係者が想像以上にアブナイ神殿騎士だったことに流石に驚くミナト。


『やっぱりバルトロス教と上手く付き合うのは無理っぽい……、あれ?あの後ろにいる人達って……?大丈夫なのかな?なんか魔力が……?あの感じどこかで……、ってシャーロット?』


 心の中でバルトロス教への評価がさらに急落するミナトがシャーロットに視線を向けると、


『ミナト……』


 そこには思いっきり不快な表情の美人にエルフがいた。いやシャーロットだけではない。デボラもミオも暗い表情でブランディルと呼ばれた神殿騎士を見つめている。


『あれ支配ドミネイションを使っているわよ……』


 その言葉で思い出す。


 かつて古都グレートピットの有名なクランである『大穴のカラス』と対峙した時、『大穴のカラス』所属するA級冒険者のカトリナが使っていた魔法だ。


 光魔法の一つで相手を文字通り支配し意のままに操ろうという魔法が支配ドミネイションである。この世界の光魔法は攻撃魔法の他に精神に影響する魔法が多い。


 そして支配ドミネイションはかける術者の精神にも影響を与え、使う側の精神を徐々に蝕んである種の狂気へと導く。どう壊れるかは本人の資質に影響されるらしいとシャーロットかつて教えてくれていた。躊躇なく支配ドミネイションを使うのは相当にヤバい奴だとも……。


『シャーロット、デボラ、ミオ、ピエール。力を貸してくれ!とりあえずあの人達を正気に戻す!』


 バルトロス教の神殿騎士との揉め事など真っ平ではあるが、目の前の人々を放って置けないと直感したミナトは躊躇なく彼等を助けるという決断を下すのだった。

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