第500話 ミナトたちはマールを味わう

「ミナト!ミナト!そのお酒ってどんなものなの?」

「うむ。我らになんの説明もないというのはどういうことなのだ?」

「ん。ボクも詳細を知りたい!」


 ミナトとしては白ワインを蒸留したという次のお酒も気になるところなのだが、シャーロットたちにも説明が必要である。


「このお酒はおれのいた世界で……、フランスって国だとマール、イタリアって国だとグラッパって呼ばれていたお酒と同じものだと思う」


 小さなグラスに注がれた透明なお酒の香りを改めて確かめつつそう紹介するミナト。


「ワインを造る時の発酵槽……、ワイン造るために葡萄を入れておくところだけど、そこ残っていた葡萄の実を改めて絞ったものをさらに発酵させてジンやウォッカと同じように蒸留して造ったお酒ってことになるかな?イタリアとかには名前が変わる他の造り方もあるけどね……」


 すると心得たようにブルードラゴンさんがシャーロットたちにマールが注がれた小さめのワイングラス四つを配ってくれた。


 シャーロット、デボラ、ミオ、そしてスライムの姿に戻ったピエールがマールの試飲に取り掛かる。


「これは酒精が強いけど、それ以上に葡萄の香りが素敵ね!」

「うむ!酒精はウイスキーと同じくらいだろうと思うが香りと味わいが異なる!これも美味い!」

「ん!葡萄の香りがすごい!そして力強いお酒!」

「美味しいでス〜。葡萄でス〜」


 どうやらマールも彼女たちには好評らしい。


『透明なマール……、もしくはグラッパを好む女性……、前の世界でもそんなにいなかったような……』


 そんなことを考えるミナト。


「これはカクテルにするのかしら?」


 そんなシャーロットからの問いに、


「一応はできるけどおれはあまり使わなかったかな?これは食後酒としてストレートがオススメかな?」


 そう答えると、


「うむ?マスターがフレンチやイタリアンと呼んでいる料理の食後酒か?なるほど、ウイスキーも美味いがこういった味わいも食後酒といわれると試してみたくなるな!」


 納得しているシャーロットの傍らでデボラが興味深そうにそう言ってくる。


「マスター!こちらはこのまま瓶に詰めて完成とするものとマスターが仰っていたオーク……、こちらのナラの樽で寝かせるものと二つ用意するということでよろしかったでしょうか?」


「ああ、それでお願いするよ!」


 ブルードラゴンの言葉に笑顔で返すと、


「ミナト?このお酒もウイスキーみたいに熟成できるの?」


 そう問いかけてくるシャーロットに、


「これもウイスキーのように熟成させると色がついて濃厚かつ柔らかくて飲みやすい感じに変化するんだ」


 そう答えると、


「熟成させたマールも美味しそうね!興味があるわ!」

「うむ。ウイスキーの熟成のように複雑な味わいになるというのであれば試してみたいな!」

「ん。面白そう!さっそく挑戦!」

「美味しそうでス〜」


 さっそく興味を持ってくれたらしい。


「だけどマールとかグラッパはこの熟成していない透明なやつもおれは美味しいと思っているよ。どちらも楽しめるって感じかな?」


 手元のグラスにある熟成されていない状態のマールだが非常によくできていると感じるミナト。


 日本にいた時もフレンチで食後酒を選択する際、あえて色の付いていないマールをオーダーすることも多かったミナトである。濃厚なフレンチの食後酒は強めでスッキリしたマールを好んだというわけだ。ちなみにフレンチではマールと呼び、イタリアンではグラッパと呼ぶのがスマートであると考えるミナト。


「ここでは……、取り合えずマールって呼び方にしようか?フランス語だと正式には Eau-de-vie de marcオー・ド・ヴィー・ド・マールって感じだからそこからマールと呼ぼうと思う」


「承りました!」


 ミナトの言葉に手を胸に当ててそう答えるブルードラゴン。美女たちもグラスを掲げて同意してくれる。


『日本でオー・ド・ヴィーっていうとマールにいろんな香りを付けたお酒って感じだけど、それは次の挑戦かな?』


 ふとそんなマールの将来を考えてしまうミナトであった。

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