第495話 神聖帝国ミュロンドへ

「では皆様!簡単なご挨拶をお願いします!」


 笑顔でそう提案するのは冒険者ギルドで受付嬢をしているカレンさんである。ここはウッドヴィル公爵邸。いつもの荷物検査と魔法陣によるチェックを終えて集められた玄関先。この場に集まったのは……、


「ウッドヴィル家騎士カーラ=ベオーザおよびウッドヴィル公爵家騎士団そして運搬部隊、神聖帝国ミュロンド第三王子であるジョーナス=イグリシアス=ミュロンド殿をお迎えに上がる」


 ウッドヴィル家付きの騎士であり、公爵家が統括している王国騎士団の一つ麗水騎士団で副団長も務めているカーラ=べオーザを筆頭に騎士が三十人、どうやら魔法が使える者が多く編成されているらしい。ポーター十人、三台の馬車それぞれに御者、一台が要人向け、後の二台が遠征の物資用だろう。


「A級冒険者ティーニュですわ。帰路において第三王子ジョーナス様の護衛を務めさせて頂きます。宜しくお願いしますわ」


 次にA級冒険者のティーニュがそう言って頭を下げる。


「F級冒険者パーティ『竜をきょうする者』。同じく第三王子ジョーナス殿の護衛をします」


 そしてF級冒険者パーティ『竜をきょうする者』からミナト、シャーロット、デボラ、ミオの四人。ピエールはミナトの外套マントである。


 その他に今日この場にいるのは先代公爵のモーリアン=ウッドヴィル、そして公爵家現当主の長女ミリム=ウッドヴィル、さらに執事の男性が一人。


『確かガラトナさんと言ったっけ?』


 ミナトは執事さんの名前を思い出す。初めてウッドヴィル邸を訪れた特から何度も顔を合わせている執事さんだが、感じられるその魔力から恐らくは元暗殺者だろうとミナトは考えている。


 ルガリア王国の第一王女であり今回のミナトの依頼人であるマリアンヌ=ヴィルジニー=フォン=ルガリアは姿が見られない。理由は分からないが、この出立が重要なものではないことにしたいかのようである。


『その辺りは貴族間で何かあるのかもね』


 心の中でそう呟くミナト。ついでに言うと今日はウッドヴィル家現当主もルガリア国王も宰相さんもいない。あくまで王家の指示でウッドヴィル家が神聖帝国ミュロンドに第三王子を迎えるための一団を送るといった様相であった。


 視線に先では簡単な挨拶を済ませた全員を前にモーリアンが進み出る。


「本日はよくぞ集まってくれた。お主達が無事に帰還を果たすことを願っている。ところで帰路における第三王子殿の身の回りの世話役として随行する者を一名追加させてもらおう。我が家の執事ガラトナである!」


「ウッドヴィル家で執事を勤めておりますガラトナと申します。第三王子ジョーナス様のお世話をする者として同行させて頂きます。執事ではありますが御者も務めることができますので……、宜しくお願い致します」


 そうして恭しく頭を下げる執事さん。ミナトからその姿はどう考えてもおとなしく蹲っている獣にしか見えない。他の騎士はそうでもないがカーラ=ベオーザの表情が複雑なものになっている。彼女は執事さんの元の職業を知っているのかもしれない。


『これってウッドヴィル公爵家がおれ達に気を遣ってくれたってことかな?』


 そんな念話がミナトから漏れる。


『どうかしら?問題が起こった時に最終的に第三王子の始末を帝国になすりつける役目なんかを与えられているんじゃないかしら?』


『うむ。我らの助っ人であると共に我らに何かあった時の始末屋を兼ねているというのが常識的なところか?』


「ん。何も起こらなければきっとミカタ!」


 そんな念話を交わすミナトたち。この依頼は王家も深く関係しており、ウッドヴィル家はルガリア王国の大貴族である。当然の如く彼等は貴族特有の冷酷さや合理的考えは持ち合わせているだろう。ミナトたちの実力は理解しているだろうが、状況によっては第三王子をこちらで暗殺して帝国側に責任を負わせる算段などもつけているはずであった。


『さて……、どん旅になるのかな?』


 青空の下でそんなことを考えるミナト。そうして隊列を組んだ一団がついに出発するのであった。

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