第491話 王都の市場で買い物です
「うぅ……、陽の光にまで重さを感じる……、……うん……、今日も王都は快晴だ……、あは……、あはは……」
本格的に春の陽気を取り戻し始めたと表現できる青空の下、ミナトはどこか遠くを見つめながらそんなことを口走りつつ目当ての食材が手に入るであろう
痛めたのか腰をフラつかせながらヨロヨロと歩みを進めている状態だ。自身の闇魔法であれば二千年前の魔王であっても圧倒できる筈のミナトであるが、今のミナトは通りを駆けている子供の体当たりでも撃沈しそうである。
「うむ……。シャーロット様……、だから我もやりすぎだと申し上げたではありませんか?」
「ん。ボクも自重した方がいいかなって……」
「な、なによ!ナタリアもオリヴィアもロビンも……、ピエールちゃんだってあんなに楽しんでいたし、あなた達だって同じでしょ?最後、私がもうちょっと相手をして貰ったっていいじゃない!?」
ややジト目で言ってくるデボラとミオに向かい真っ赤になって弁明する美人のエルフ……、もちろんシャーロットである。
昨夜のこと……、温泉郷を存分に楽しんだ一行は寝室へと移動しようとしたのだが、そこで一悶着が発生した。
こういった場合、いつもであれば話し合いやらコインやらカードやらで折り合いをつける女性陣なのだが、昨夜は少し事情が異なった。ナタリア、オリヴィア、ロビンの三人が『旅に出ればミナトを独占するのだからそれまでは我々三人を優遇すべき』と主張したのである。それに対してシャーロット、デボラ、ミオは『これまで通り』を主張してこれに反発。城内が騒然となる事態となったのだ。ちなみにミナトにおんぶ状態であった幼女姿のピエールはこの争いには参加していない。
結果としてミナトがみんなを……、というよく分からない折衷案で昨夜を乗り切ったのであるが、神聖帝国ミュロンドへの出発まで長くてあと二週間。ミナトが保つのかどうかは神のみぞ知るところであった。
そんな朝を迎えているのでシャーロット、デボラ、ミオの三人に関しては髪の毛はキラキラ、肌はしっとりツルツルのスベスベで誰もが見惚れる圧倒的な美貌はいつも以上の充実感に溢れている。現在はシャーロットの肩の上にいる水色のスライムに擬態したピエールも心なしかいつも以上にツヤツヤでプルプルだ。
そんな美女たちはミナトの歩調に合わせてのんびりと王都の街を散策する。
ちなみにナタリアはお城で魔道具のメンテナンスの指揮をとっており、オリヴィアはお城でメイドであるドラゴンたちの研修だとか……。
ロビンは冒険者ギルドに出かけて行った。どうもロビンが主となっているダンジョン内以外でも彼女は冒険者を鍛えているらしい。もちろんダンジョンの外では女性の姿でだが……。王都の冒険者ギルドで教官というと彼女のことを指すことになるのはそう遠くない未来の話しである。
そうしてやっとのことで辿り着いた
「えーっと……、おお!これがあるなんて!」
完全復活にはもう少し時が必要そうなミナトが一つの商品の前で立ち止まる。
「ミナト?それってもっと緑色をしているんじゃないの?」
「うむ。我も見たことがあるがこの色ではなかった気がする。味はどうなのだ?」
「ん。それにボクが知っているものより大きい」
どうやら彼女たちにとっては緑の状態が一般的らしい。ミナトにもそれはとても理解できることだが、こちらもまた格別に美味いのである。そんな野菜こそ、
「ホワイトアスパラガス!まさにフレンチ春の味覚!これは買いだ!」
やっと普段の状態を取り戻せたようだ。
「お、兄ちゃん!こいつのよさが分かるなんてツウだね!地中深くで栽培して白く大きく育つ絶品白アスパラ!今日は型のいいのが入ったんだ!お安くしとくぜ?」
「買います!買います!」
喜び勇んでホワイトアスパラガスを大量購入する。この野菜に馴染みがなさそうなシャーロットたちに美味しいフレンチを作ろうと心に誓うミナトであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます