第489話 今夜も楽しく平和です

「あ〜〜〜、気持ちイイ〜〜〜、端的に言って最高だね!冬って季節もイイもんだ!」


 口をついてそんな台詞が出てしまうほどの気持ちの良さをミナトは感じていた。ちなみにこのシーンに相応しい効果音はどう考えても、


『カッポーーーーーーーーン!』


 である。


 ここは王都の東に広がる大森林の最奥部、ミナトの城の中にあるお風呂……、という表現ではとても足りない温泉郷といった空間。パラス内にあるはずなのだが理由は不明ながらにダンジョン化したらしく、屋外の深い深い森の中に各種の風情溢れる露天風呂や総檜としか思えない木材を贅沢に使用した趣のある湯船が配置されている。さらにどういう仕組みか温泉を繋ぐ小道は出入りが自由ながら雨風を防ぎ気温と湿度を一定に保つ結界が張られており、外と連動していると思われる気候の影響を受けることなく湯船の移動が可能という親切設計であった。


 そして当然の如く露天風呂だけでなく石造りの家屋式になっている浴場まで完備されており、そちらは日本のような設備はないが、どこのゴージャスな健康ランドでしょうか、と言いたくなるほどの充実した各種の湯船が備わっていた。


 さらにこの森は剣呑な魔物はおらず一般的で危険性の少ない動植物で構成されており、その辺りはピエールの分裂体が確認済みであった。


 今は夜、冒険者ギルドから帰還したミナトは満天の星空の下で総檜らしい湯船で一人寛いでいる。湯船といっても大きい。日本ではこの大きさは難しいんじゃないかと思える、三十人以上でもゆったりできる規模なのだ。


 ところでこのお城をなぜミナトの城などという呼び方かというと結局、ミナトが決めきれなかったのであった。


 当初は……、


『きっと紅玉オーブを全部集めたら空を飛ぶんだから……』


 ということで天空に浮かぶ竜の神様が住んでいるお城の名前にしようと思ったミナトだが、ミナトの居城というか巨城をマジマジと眺め、漆黒を基調に金をあしらったド迫力の外観にどうしてもその名前をつけることができなかったのである。


『……だったら四作目の敵役の居城……、そんなのダメに決まっている!魔王城より始末が悪い!』


 お客さんにカクテルを勧める時の決断力と提案力はどこへやら……、うにうにと悩んだ結果、『保留』という結果に至ったミナトであった。


「まだ悩んでいるの?もう魔王城でイイんじゃない?ミナトくらい強力な魔物を従えている存在なんてこの世界ができてから初めてじゃないかしら?率いる魔物も強いけどミナトの闇魔法もかつての魔王を指先でダウンさせるくらい強力だしね?」


 そんな言葉と共に一糸も纏っていない美人のエルフが湯船へと入ってきた。星空を楽しむ夜の温泉だが備え付けられた魔道具のランタンからは優しい灯りが溢れている。その星空と灯りに照らされるスレンダーながらに美しさと女性らしさが完璧に調和されたその肢体は魅力的という言葉以外見つからない。


 そんな肢体の主であるシャーロットのことが大好きで心から信頼しているミナトだが、


「勘弁してはモラエナイデショウカ?」


 後半はカタコトになりつつそう返す。


「うむ!我らの自信作だからな!あの頃の魔王城より数段見事な造りをしているぞ!」

「ん。二千年前のあんな城なんて相手にならない!ボクはガンバッタ!」


 そんな台詞と一緒にまさにダイナマイツとしか表現できないスタイルの持ち主であるデボラと、完全なる可愛らしい少女体型に真っ白な美しい肌を湛えるミオもミナトがいる湯船へとやってきた。


 二人とも堂々と全裸なのだが、お願いだから少し自重して欲しいミナト。二人の破壊力は凄まじいのだ。一応、自分は少女趣味ではないと信じているミナトである。


「でも〜、こんな快適なお城が魔王城と呼ばれるなんて、時代も変わりましたね〜」


 そう登場するのはナタリアである。あの引き締まりかつダイナマイトなデボラとはまた対照的に女性の色気が爆発している圧倒的肉感のボディは目の毒以外ないものでもない。そしてなぜか片手で隠し切れるものでもないその強大な果実を隠そうとしている状態での登場にとても困るミナト。


「マスター!ご準備が整いました。お身体をお流ししますのでこちらに……」


 背後からそんな声がかかる。振り向くとバスタオルを巻いたオリヴィアが跪いていた。背後には気温調整された快適な洗い場が……。


「いや……、自分で洗うから……」


 ささやかな抵抗を試みるミナト。


「それはいけません!旅の最中であればいざ知らず、この城内でそのようなことをマスターにさせるわけにはいきません!さあ!」


 そう言ってくるオリヴィアにケモ耳とシッポが発生する。シッポを凝視できるくらい裾の短いバスタオルということは……。


「オリヴィア!とりあえずシッポはしまおうか……?ね……?」


 眼球に行き渡る血流が大変なことになってきた。


「マスタ〜!」


 トテトテと走ってきたミオよりも年若い少女……、というか幼女がミナトの腕の中に飛び込んでくる。細い手足に薄い身体ではあるがその美貌は凄まじい。


「ピエール!?」


 思わず声を上げるミナト。その柔らかい存在にほっこりするがいけないことをしている感がちょっとマズい。


「ピエール殿!抜け駆けはせぬ約束ではなかったのですか!?」


 一糸纏わぬ黒髪で細身の美少女……、ロビンが登場するが、そのお淑やかという表現が完璧に当てはまるその容姿とは対照的に大迫力の仁王立ちである。もうどこに目をやってよいのやら……。


「あなた達!今日のミナトの隣は私がもらうわよ?昨日は何もできなかったんだから!」


「うむ?シャーロット様?それは横暴では?」

「ん!抗議する!」

「では〜、わたくしはマスターの最後に〜」


「「それはズルい!!」」


 間隙をついたナタリアの主張にデボラとミオの声が重なる。


「ささ、マスター!どうぞ洗い場へ」


 どうしてもオリヴィアはミナトの身体を洗いたいらしい。そして頼むからシッポは隠して欲しい。


「マスターといっしょ〜」


「ピエール殿……、その姿でマスターの腕に収まるの反則では?」


「あはは……、うん。みんな仲良くね?楽しいことはいいことだ……」


 何かに達観するミナト。旅の前……、ミナトのお城は今夜も平和であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る