第486話 ミナトは依頼内容を把握する
「マリアンヌよ。それではミナト殿が困ってしまう。ミナト殿、我から先ほどの問いへの回答をしてもよいだろうか?」
そう言ってきたのは未だ正式に名乗ってはいないが国王であるマティアス=レメディオス=フォン=ルガリアである。ミナトにとってはBarの常連であるマティアスさんだ。
「お願いします」
ミナトの言葉に一つ頷くマティアス。さすがにその真剣な表情には一国を背負う者たる威厳が備わっている。
「第三王子のジョーナスは特殊なスキルも魔法の才も持っていないごく普通の青年なのだ……」
王様が凄いことを言ってきたような気がするミナト。
「でも、それだと……、王子としての立場が……?」
「そうなのだ。かの国では王族や高位貴族といった者達は血縁にスキルや魔法の才がある者を積極的に加えているという。我が国の研究ではスキルや魔法の才は遺伝ではないとの結果が出ているがかの国での認識は異なるらしくてな。そこまでしている国の第三王子として生まれたジョーナスには特別な才が無かった。母親はどこぞに幽閉され会うことができないままに死亡したという報を受けたと聞いたな……。幼少の頃からジョーナスはかの国で冷遇されいつ排除されてもおかしくない微妙な立場に置かれ続けていた。しかしその頃……、十年前のことだが、かの国の東部国境における小競り合いが少し大きくなり過ぎたことがあってな……。背後にいる我が国との相互不可侵条約を強化する必要性を感じたらしいかの国はジョーナスを留学という形で我が国へと送ってきたのだ。まあ誰が見ても体のいい人質にされたということだ」
『子供の頃の徳川家康が織田家に人質に出されたのと同じかな?その辺りは日本も異世界も変わらないね』
そんなことを考えてしまうミナト。
「ジョーナスはそこから五年間を我が国で過ごした。我等も隣国で冷遇されていたとはいえ第三王子を無碍に扱うことなく最高学府の王立学院で学んでもらったわけだが……、このジョーナスはなかなかに優秀でな……」
国王の説明によると第三王子のジョーナスは現在二十歳。つまり十歳から十五歳までをルガリア王国で過ごしたことになる。最高学府とされている王立学院は基本的に十歳から十五歳までらしく、その後は文官見習いとして貴族に仕えるか王城で働くか専門機関でさらなる研究を行うわけだが、このジョーナス君、温厚で穏やかな性格の持ち主であり、なかなかのイケメンで他の生徒からも人気があったらしいのだが、王立学院をぶっちぎりの首席で卒業したらしい。身体能力も平凡でスキル、魔法などにも優れた才は無かったらしいが、筆記試験の成績はその全てをカバーし他を圧倒したらしく、その成績は今でも伝説的に語られているのだとか……。自身が冷遇されていたこともあり、もともとバルトロス教を疑問視していたことに加えて、ルガリア王国の自由なお国柄に触れ友人も出来たことで思想は完全にルガリア王国寄りらしい。そしてそんなジョーナス君のことを第一王女様は兄にように慕っていたのだとか……。
「そして自国に帰ったわけだが、今度はすぐさま海沿いの都市国家に人質に出されてな……、その国などであれば我が国の密偵も出入りしやすいので警護もできるし、さらに正当な手順でもジョーナスとは何かとやり取りは行っていたのだが……」
そうしてチラリと第一王女に視線を送る王様。すると第一王女のマリアンヌが赤くなって俯いてしまう。
『やりとりってそういうこと?』
『ミナト!乙女のヒミツは華麗にスルーよ!』
『うむ。ここは黙っているべきよな!』
『ん。マスターは黙っている』
『秘密です~』
美女たちとそんな念話を交わしていると、国王の表情が曇る。
「だがこの冬に自国からの召喚状が届いたらしい。都市国家でも評判がよかったらしいからな。恐らく第一王子か第二王子に連なる者が目障りと考えたのだろう。現在、都市国家からの移動中らしいが、このまま自国に戻って留まれば暗殺される可能性が高い」
それはミナトも理解する。自国の国教に疑問を持っている優秀な王子など不穏分子以外の何者でもないのだ。
「得難い優秀な人材ということもあるが、マリアンヌが兄と慕う者をこのまま何もせずに見殺しにはできないのでな。招き入れるため長女マリアンヌが体調を回復したことを祝う場を設けるので学友としてまた友好国の代表として招待するという形を用意した。既に招待状は送ってある。こう見えて我が国も大国だ。正式に招かれては断ることができないだろう。それにすぐには暗殺もされない筈だ。大国とされている我が国が正式に招待した人物が死亡したのでは外聞が悪いだろうからな。だが我が国の騎士団が護衛の責任を持つその道中で何が起こるのかは分からない。ミナト殿!ジョーナスを護るのに力を貸してはくれないだろうか?」
そんな内容の話を聞いて依頼内容の全貌が見えてきた。
『さて……、どうしようか……』
心の中でそう呟くミナトであった。
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