第485話 依頼内容の説明を

 どうやら今回の依頼はヤバい宗教国家である神聖帝国ミュロンドへの訪問ということになるらしい。


「えっと……、詳細をお願いできます?」


 カレンさんへ説明を促すミナト。


「はい。依頼内容としては護衛任務ということになります。ウッドヴィル家の騎士団は神聖帝国ミュロンドの帝都グロスアークから神聖帝国ミュロンドの第三王子であるジョーナス=イグリシアス=ミュロンド様を王都までお連れする任務を与えられるのでティーニュさんとミナトさん達にはジョーナス様の護衛をお願いしたいのです」


 淡々と話すカレンさんではあるが、


「あの……、今のその内容だけで質問事項が山積みなのですが……」


 とてもではないが即答で受ける受けないの話ができる内容ではない。


「もちろんです。依頼者であるマリアンヌ様から全ての詳細を包み隠さずミナトさんにお伝えするよう伺っておりますので!」


 そう返してくるカレンさん。


「まず神聖帝国ミュロンドと我が国の関係について私から説明させて頂きます」


 そう言って立ち上がったのはここルガリア王国で宰相を務めているハウレット=フィルグレイさんである。


「神聖帝国ミュロンドが建国されたのはかの国では二千年前と称していますが、我が国の歴史にその名が現れたのは五百年前の資料からとなる国です。この大陸の東に位置しており王都からですと、東にあるウッドヴィル領、その先にあるバウマン辺境伯領から国境を越え、東の国境としているクラレンツ山脈を越えた先ということになります。クラレンツ山脈には細い街道がありますが、剣呑な魔物も多いためなかなか交易が難しい状況でして……。山脈越しとはいえ東の国境を接する隣国であるにも関わらずやり取りは少ない国ということになります」


「友好国なのですか?」


 そう問いかけるミナト。神聖帝国ミュロンドで信仰されているバルトロス教の話を聞いてしまうと、とてもお友達になれる気がしない。


「一応、相互不可侵の友好条約は結んでおりますが、かの国はなかなかに好戦的でしてな……。かの国の東には亜人が多く暮らしている小国群や海に面した都市国家などがあるのですが、どうやらそういった東側の国と小競り合いを繰り返しているようなのです。かの国で信仰されているバルトロス教の影響だと思われます。王城がファーマー殿の魔法訓練に無感心を装っているのもかの国からの無用な干渉を躱すためですね」


「ミリムさんから聞きましたけど……、二千年前に魔王による大戦があったことそれ自体を否定していてファーマーさんが存在するという事実自体がその国の建国意義を強烈に揺るがし宣戦布告級に刺激してしまう可能性がある国って……」


 宰相さんの説明にそう反応するミナト。


「残念ながら隣国である神聖帝国ミュロンドですね……」


 エルダーリッチのファーマーさんから指導を受けるとこれまで魔法が使えなかった者達もある程度の魔法が使えるようになるらしい。魔物を滅ぼすべき不浄の存在と断じる神聖帝国ミュロンドからすると、魔物の指導で魔導士になるということが既にヤバい考え方なのだろう。魔導士であることに特権意識をもつであろう神聖帝国ミュロンドにそのことが伝われば……、敵国認定くらいはやってきそうである。


 がっくりと項垂れるミナト。もの凄いメンドーな国である気がしてくる。そもそもデボラ、ミオ、ナタリア、オリヴィア、ピエール、ロビンといった魔物をパートナーとし、数多のドラゴンを眷属としているミナトとの相性は最悪だ。


「隣国とはいえそんな相性の悪い国からなぜ第三王子がこの国に……?」


 次の質問をするミナト。


「ミナト様!お願いします!どうかジョーナスお兄さまをこの王都へ!」


 しかし、質問の回答ではなく今回の依頼主とされている第一王女のマリアンヌからそんな言葉が飛んできた。先ほどまでの優雅な王女スマイルはどこへやら……、それはそれは沈痛な面持ちであった。

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