第484話 淑女の秘密と依頼内容の確認と

 ウッドヴィル公爵家の会議室でミナトたち一行を出迎えたのはルガリア王国の第一王女様であるマリアンヌ=ヴィルジニー=フォン=ルガリアであった。彼女は命の危険もあった制御できない魔眼をミオに治療してもらい、初冬に行われた受けの儀式である『王家の墓への祈り』の際にミナトに命を助けられている。依頼人がミナトとミオを指名したというのはその辺りが理由だろう。


『そしてこの人たちもいる……』


 ミナトは視線の端で第一王女であるマリアンヌの背後に居並ぶ面々を確認する。未だに名乗りがないためミナトにとってはあくまでもBarの常連さんだが彼女の父でありこのルガリア王国の国王であるマティアス=レメディオス=フォン=ルガリア、ルガリア王国の宰相を務めているハウレット=フィルグレイ、ウッドヴィル公爵家の先代当主であるモーリアン=ウッドヴィル、その孫娘であり継承権は既に放棄したにも関わらずウッドヴィル公爵家の頭脳として活躍しているミリム=ウッドヴィル、冒険者ギルドで受付嬢をしているカレンさん、ウッドヴィル公爵家の護衛依頼などを受けているA級冒険者のティーニュ、そんなメンバーで打ち合わせを行うらしい。


 ちなみにウッドヴィル家の現当主であるライナルト=ウッドヴィルと奥方、継承権を持つ長男は不在である。


『国王様と宰相さんが第一王女を連れてお忍びでモーリアンさんを訪ねたという体かな……?』


 そんなミナトの予想は当たっている。ウッドヴィル公爵家の先代当主であるモーリアンは現国王マティアスの叔父にあたり、宰相さんとモーリアンさんは王立学院の同期である。そして第一王女のマリアンヌはミリムやティーニュのことを『お姉さま』と呼ぶほどに慕っている。魔眼のことを秘匿し、『ずっと病弱だったがこの冬の手前あたりから体調が回復した』というシナリオを抱えているマリアンヌが春になったので慕うミリムと公爵家の屋敷で会おうとするというのも自然なことと言えた。これだけ条件が揃えば他の貴族家から何かを勘繰られることないはずだ。


『そこまでしてギルドでも王城でもない場所でおれ達に依頼したいことがある?』


 そんなことを思っていると、


「ミナト殿、ご足労かたじけない……」

「ミナト殿……、何卒この依頼を……、何卒……」


 浮かない顔で呟くようにそう言ってくる国王様と宰相さんのことが気になるミナトである。


 そうして全員が着席したことを確認して、カレンさんが立ち上がった。


「本日はお忙しいところお集まり頂き誠にありがとうございます。今回の依頼はマリアンヌ様を依頼者としてウッドヴィル公爵家から冒険者ギルドへと出された依頼です。冒険者ギルドとしましてはミナトさん達パーティ『竜をきょうする者』にこの依頼を受理して頂きたいと考え昨夜のことですがマリアンヌ様とモーリアン様に冒険者ギルドまでお出で頂き、シャーロットさん達と内々での打ち合わせをさせて頂きました。いろいろと確認もさせて頂き得る物の多い打ち合わせでしたが、依頼受託の最終決定はミナトさんの判断一つとのことでしたのでこの場でミナトさんに依頼内容の詳細をご説明させて頂きます」


 どうやら昨夜の打ち合わせにマリアンヌ様とモーリアンさんも出席していたらしい。


『うーん……?なんでそんなことを……?』


 そんな念話がミナトから洩れる。


『依頼以外にもマリアンヌは私たちと女性のみで話がしたかったらしいわ。昨日のその部分ではモーリアンも退室していたわね』


『依頼以外って?どんな話か聞いてもいい?』


 軽い気持ちでそう返すと、


『ミナト!淑女には秘密があるものなの。それを男が詮索するのは野暮ってものよ?』

『うむ。マスターよ!その詮索はよくないぞ?』

『ん!乙女のヒミツは大切に!』

『秘密のオハナシ~』


 シャーロット、デボラ、ミオ、ピエールからそんな念話を貰ってしまった。


『ソ、ソウナノ?』


 何やら女性同士でのお話し合いがあったらしい。淑女の秘密のお話しなるものは少し気になるが、ここはカレンさんが話す依頼内容に集中することにする。


「ミナトさんは神聖帝国ミュロンドという国をご存じですか?」


「神聖帝国ミュロンド……?あれ……?どこかで聞いたような気がしますけど……」


 そう答えつつ自身の記憶を探るミナト。確かどこかで聞いたような気がするのだが……。そしてその国名を聞いて国王様と宰相さんの表情が一段暗くなる。


「バルトロス教という宗教が国教となっているのが特徴といってよい国ですね」


 そこでミナトの記憶が繋がる。冬の間、ミナトと行動を共にすることが多かったB級冒険者パーティである『鉄の意志アイアン・ウィル』から話を聞いたのだ。


「たしかスキルや魔法が使える者を優遇する国だっけ?」


 ミナトの言葉をカレンさんが頷いて肯定してくれる。


「はい。この大陸の東に位置する大きな国です。ここルガリア王国では種族、スキル、魔法が使えるかといったことで住民を差別することはありません。信仰も自由です。しかし神聖帝国ミュロンドは有能なスキルの持ち主や魔法の才に恵まれた者を厚遇する強い選民思想がある国なのです。統治している皇帝が国教であり一神教であるバルトロス教の教皇も務めている政教一致の大国ということになります。そしてバルトロス教の教義において魔物は滅ぼすべき不浄の存在とされています」


 カレンさんは申し訳なさそうにチラリとピエールへ視線を送る。この場にいるデボラ、ミオ、ピエールは魔物なのだが、普通のスライムに擬態しているピエール以外で魔物であることを知られている者はいない。だがピエールは我関せずといった様子でふよふよとミナトの肩で揺れていた。


「それで、その神聖帝国ミュロンドが今回の依頼とどう関係するのですか?」


 そう問いかけるミナト。どうやらやっぱり厄介な依頼だったらしい。そんなミナトにカレンさんは、


「ミナトさん一行にはウッドヴィル家の騎士団、A級冒険者のティーニュさんと共に神聖帝国ミュロンドへ行って頂きたいのです」


 ミナトが予想していたとおりの答えを返してくれるのであった。

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