第483話 依頼人の女性とは?
翌日、上空にある太陽はまだ随分と高い。雲一つない王都を照らす陽光の暖かさは冬の晴天ではなく春の陽気という表現がぴったりである。
本日は無の日で王都の活気も今日はどこか穏やかだ。この世界の曜日は世界を構築する属性が曜日として割り当てられており、火、水、風、土、光、闇、無の七日で一週間とされている。無の日が日曜に該当し、一般的な職業の者達は休息日に当てていた。ミナトもBarも本日はお休みである。ちなみに月は元の世界と同じく十二ヶ月で一年。一月から十二月まであるのは変わらない。
春を感じさせる陽光の下、ミナトはシャーロット、デボラ、ミオの三人の案内でとある場所を目指していた、……といってもミナトには歩く道順でどこに向かっているのかの見当はついているのだが……。ミナトの肩の上では普通のスライムに擬態したピエールがふよふよと揺れている。
なんでも昨夜の冒険者ギルドでの話の続きをするらしい。シャーロットは今日の打ち合わせで明らかになるからと詳細を教えてはくれなかったが、依頼人はミナトとミオを指名したらしい。
たまたま冒険者ギルドを訪れていたシャーロットに受付嬢……、かどうかはよく分からないくらいに各方面へのパイプを持っていると思われるカレンさんから『ミナトとミオへ依頼をしたい』との相談があったとか……。
そして依頼人が女性とのことで偶には『女性のみで話を聞こう』ということになりミナトのパーティである『竜を
昨夜の打ち合わせの結果、ミオが、
「ん。どんな依頼でもマスターが受けるというならボクに依存はない」
と結論づけたとのことだった。そしてミナト以外の参加メンバーも大体決定したらしい。後はミナトが依頼の詳細を聞いて決断するだけである。
『いや……、昨日の打ち合わせにおれも出席していたら早かったんじゃない?』
などと考えるミナトだが、
「夜遅い打ち合わせだったし、依頼人が依頼人だけにギルドも気を使ったんじゃないかしら?」
シャーロットはそう返すだけで詳しい事情は直接聞いた方がよいということらしい。そうして目的地に到着する。
『ふぅ……。冬祭りの後、冒険者としては休業状態だったけど、活動を開始しようとするとここに来ることになるんだね……。やっぱり昨日の発言はダメなヤツだった……』
心の中でそう呟くミナトの眼前には大きな石造りの門があり、その先には遠くに見える白亜の屋敷へと続く道があった。そしてその門には白獅子のレリーフが填め込まれている。
ここルガリア王国で二大公爵家の一つとされているミルドガルム公爵ウッドヴィル家の屋敷であった。かつてミナトが調べた武鑑のような資料には以下のように記されている。
【ミルドガルム公爵ウッドヴィル家】
ルガリア王国において文化的中心地とされる水の都アクアパレスを中心とするミルドガルム地方を治める公爵家。その歴史は二代目ルガリア王国国王オルドス=ルガリアの第二皇子であったサイラス=ルガリアがミルドガルム地方の統治を任されウッドヴィル家を興したことに始まる。歴史あるこのルガリア王国における二大公爵家の一つでこの国の文官を取り纏める立場にある。紋章は白獅子。
ちなみに二大公爵家のもう一方はこう紹介されていた。
【スタンレー公爵タルボット家】
ルガリア王国における交易拠点の要所である自由都市ミルドガルムを中心とするスタンレー地方を治める公爵家。その歴史はルガリア王国初代建国王バルバドス=ルガリアの弟君であるアルミアス=ルガリアがスタンレー地方の統治を任されタルボット家を興したことに始まる。歴史あるこのルガリア王国における二大公爵家の一つでこの国の武官を取り纏める立場にある。紋章は黒獅子。
どちらの公爵家とも結構関わってしまっているミナトだが今回はウッドヴィル家が関係する依頼らしい。
何度も訪れてこちらの顔を知っている門番のゴルンバードと挨拶を交わし来訪の理由をシャーロットが説明する。荷物チェックもそこそこにサクッと屋敷内の会議室へと案内されるミナト一行。案内してくれる執事さんは相変わらず元暗殺者風の魔力を感じさせていた。
『依頼人は女性ってこういうことか……、だからおれとミオの名前が出たと……』
そう納得するミナト。ミナトが会議室に入るやいなや、
「本日はお時間を頂きありがとうございます」
そう言ってミナトたちを迎えたのは明るく美しい金髪にグリーンの瞳を湛えた年若い美女……、いや未だ美少女という表現が適切か……。
ルガリア王国の第一王女様であるマリアンヌ=ヴィルジニー=フォン=ルガリアその人がミナトたち一行の前に現れたのであった。
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