第466話 美人のエルフによるダンジョンの一考察

 ミナトたちはファーマーの案内で、三百年前に野菜を取引していた商人が使っていたという階段の付近へとやってきた。その途中でこの空間までやってきた経緯をシャーロットがファーマーに説明すると、


じゃぁ商人さんからこごが第一階層で階段下りるだげの簡単なダンジョンだど聞いでいました。『みどりの煉獄』?そったダンジョンぁ聞いだごどがねんだども、その第十階層どこごが繋がってらったどいうのだが?」


 そんな反応が返ってきた。ファーマーが目を覚ましたという修道院らしき建造物があるこの空間は、およそ二千年前から三百年前まで第一階層のみの単純なダンジョンだったらしい。シャルトリューズの湧く泉の使い方は分からなかったファーマーだが、水と土と宝箱からの入手できる野菜の種子があったことからここに野菜畑を作り始め、三百年ほど前までは王都の商人と一定の交流があったらしい。


ぁ基本的には闇属性で攻撃魔法の使い手んだども、土魔法で農作業の道具作るごどがでぎだ。それに作り物デコイの魔法も使えあんすすけ人の姿で対応でぎだのだ」


 そう言うとファーマーの全身が輝く。


「あ……、この展開って……」


 ファーマーという名前だし、エルダーリッチで二つ名が死の司祭……。ここは絵に描いたかのようなロマンスグレーの司祭様がその教会の傍らで野菜畑を作っているイメージでお願いしたいところのミナト。かつての魔王軍における実質的なトップが麦わら帽子の素朴な美少女になられても困惑してしまう。麦わら帽子とシャツとオーバーオールがよく似合うサバサバ系グラマー美人も以下同文だ。


 そうして光が収まったところに立っている人物は……、


「おお……、今回はおれの予想通りの展開だ……」


 感動と安堵でそう呟くが同時に、


『ん?今回だけってことはないよね?』


 などとも思ってしまうミナト。彼の視線の先にはスラリとした長身に穏やかな笑みを浮かべる眼鏡をかけたロマンスグレーの紳士が農作業姿で佇んでいた。司祭服を着せればまさに立派な司祭様という風貌である。ただし……、


『……両手に持った銃剣を十字に構えてうぬとか言い出しそうにも見えるから不思議だ……』


 そんな物騒なことを心中で思っていると、


「ミナト、あの容姿ってちょっと不穏に見えない?人族や亜人の味方になったのに死の司祭って呼ばれたのはその辺が由来なのよ。結構、苛烈な戦い方をしていたしね?大規模魔法も使えるけど闇魔法で作り出した短剣の二刀流とその短剣を無限に生み出しての投擲は凄かったのよ?」


「え……?」


 どうやら印象はあながち間違ってはいないらしいことに少しだけ冷や汗をかくミナトであった。そんなやり取りをしながらもミナトは三百年前に通れなくなったという階段の調査に望む。こういう時にお願いできるのは、


「分裂体出発でス~!」


 数十体はいるピエールの分裂体が階段に繋がっているという通路に次々と飛び込んでゆく。ピエールの分裂体は一体一体が強いしピエール自身が遠隔で操作もでき情報もオンタイムで入手できる。こういう調査には最高の手段であるといえた。そうしてしばらく待っていると、


「調査ヲ完了しましタ~!階段ハ地上まで繋がっていまス~。出口の近くに細いですが王都へ続く街道と思われる道も発見しましタ~」


 ピエールがそう報告してくれた。どうやらファーマーのいた空間は三百年前の状態を取り戻したらしい。


「私の予想でしかないけど、三百年前くらいにファーマーがいたダンジョンの直ぐ近くにダンジョンである『みどりの煉獄』が発生したんじゃないかしら?滅多にないけど極稀に複数のダンジョンが繋がって互いの特徴を共有してしまうって現象が観測されている筈だわ?きっと同じことが起こったのだと思う。そして『みどりの煉獄』で囚われし哀れな魂アニムス・ポーパル・カプティブスが発生したことでその影響を受けてファーマーがいた空間も隔絶されたんじゃないかしら?」


 シャーロットの説明に、


「互いの特徴を共有……?そうすると『みどりの煉獄』で野菜が採れたっていうのは……?」


 ミナトがそう呟くと、


「ファーマーがいたダンジョンの影響を受けた可能性が高いわね」


 そう答える美人のエルフ。


「シャーロット。今回は囚われし哀れな魂アニムス・ポーパル・カプティブスをおれ達が止めたけどこれが復活したらまたファーマーさんが閉じ込められるんじゃ?」


「今のファーマーは以前のロビンと同じでこの第一階層しかないダンジョンに囚われている状態ね。だけどミナトのスキルでダンジョンを移動できるようになったファーマーなら囚われし哀れな魂アニムス・ポーパル・カプティブスくらいどうにでもできるわ」


 かつてロビンはダンジョンの主として王都の南にあるダンジョンの最下層から出ることができなかったが、ミナトにテイムされたことで【眷属魔法】である眷属強化マックスオーバードライブが発動、煉獄の首無し騎士ヘル・デュラハンから首を失った闘神ヘル・オーディンへと進化を遂げる中でダンジョンの外でも活動が可能となったのであった。


【眷属魔法】眷属強化マックスオーバードライブ

 極めて高位の眷属を従えるという類稀な偉業を達成したことによって獲得された眷属魔法。眷属化した存在を強化する。眷属を確認して自動発動。強化は一度のみ。実は強化の度合いが圧倒的なので種を超越した存在になる可能性が…。


「おれのスキル?でもファーマーさんってもう名前があるし……」


 シャーロットの言葉に戸惑いを見せるミナト。


「そう。ミナトが既に名前を持っているファーマーを新たにテイムすることは難しいの。だけどファーマーには大いなる虜囚グランド・プリズナーってスキルがあってね。ミナトが了承すれば眷属強化マックスオーバードライブをファーマーに発動することができるはずだわ」


 そう言って片目を瞑ってみせるシャーロットであった。

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