第465話 エルダーリッチの夢

 視線の端ではミオが回復魔法をファーマーにかけている。


「そういえばロビンもファーマーさんもアンデッドといえばアンデッドだよね?回復魔法って大丈夫なの?」


 素朴な疑問が口をついて出るミナト。ミナトによる不意の問いかけにシャーロット以下全員が首を傾げた。


「ミナト?回復魔法だからかけられた対象は回復すると思うのだけど何か疑問に思うことがあるの?」


『そういう設定?』


 そう思いつつ、ミナトは日本でプレイした最後のファンタジーなRPGの経験を伝えてみる。


「そんなことはないわよ?この世界の回復魔法は肉離れも骨折もアンデッドかどうかに関係なく回復させることができるわ。多分、この世界で光属性の魔法にある対アンデッド用の聖魔法の効果が混じっているみたいね」


「聖魔法?そんなのがあるんだ?」


「あまり簡単な魔法じゃないし、威力も小さいけどね。ちょっとしたゴーストとかを祓うことはできるけど、ロビンやファーマーに影響を与える聖魔法なんて聞いたことがないわ。たぶん存在しないと思う」


 そんな話をしていると、


すわねすいませんすわねすいません。これ程までに驚いだのはこご二千年ながったものだすけ。つい意識失ってまりました。どごまで話したっけ?」


 ファーマーが復活した。


「シャーロットやデボラたちが言っていた消滅したとか夢を叶えたとかってことを尋ねても?」


 当初の疑問を口にするミナト。みんなが視線を交わした後、代表してシャーロットが口を開く。


「私は魔王軍の実質的なトップであるエルダーリッチに究極の隷属魔法である想起される永遠不滅の契約エターナル・コンタクトをかけ、さらにファーマーという名前を与えて魔王の支配から彼を切り離したの……。だけどそれは不完全だったのよ……」


 シャーロットが俯く。


「エルダーリッチが魔王の魔力から直接造られたという因果を断ち切ることがあの時の私にはできなかった……。二千年前のあの日……、魔王が滅んだ時、同時にファーマーも光となって消滅したの。その筈だった」


「わもそのごどに関しては覚悟がでぎでいました。ただわんつかちょっと未練もあったすけ、消滅するのぁ残念でしたが、気がづいだらこの空間にいだんだ」


 ファーマーの言葉に、


「うむ。ダンジョンの奇跡と呼ぶのに相応しい現象だな」


「ん。詳細は分からないけどまた会えたのは嬉しい」


「本当にそう思いますね~」


「そうだったのですね……」


「そうなのですカ~」


「貴殿と再会できたことは吾輩にとって望外の喜びである!」


 デボラたちも口々にそう言ってくる。


「あれ?そうすると夢を叶えたってのは外にあった野菜畑のこと?」


 ミナトの問いかけにシャーロットとファーマーが頷く。


想起される永遠不滅の契約エターナル・コンタクトをかけて魔王の支配を粗方引き剥がした時、彼に聞いたのよ。魔王の支配から解き放たれたら何をしたいのかって……。そうしたら畑を作ってみたいって彼は言ったの。大戦が終われば平和な時代が来る。そんな平和な時代に闘いとは無縁の大地と共に生きる生活がしてみたいって……。だからファーマーという名を付けたのよ」


だすけだから今はやだらとても充実してら!」


 満足そうにそう話すファーマーどうやら笑顔になっているらしい。つられてミナトもシャーロットたちも笑顔になる。どうやらこの魔物は消滅することなく穏やかな日常を手に入れることができたらしい。他人のことながらとても嬉しくなるミナト。するとファーマーが思い出したかのように、


「んだどもわんつかちょっとだげ残念だったのはこご三百年、誰もこご訪れでぐれねごどだね。三百年ほど前まではこごさきて野菜仕入れでける商人来てけでいだのんだども……」


「え?」


 ファーマーの言葉にミナトが反応する。


「それはどういうことですか?」


 詳細を尋ねるミナト。


「あっちに地上さ出れる階段があったのんだども、三百年前がら使えなぐなってまったのだ。ぁダンジョンがら出れねらしいのんだども、訪ねでける人がいだごろはこごももっと賑やがだったんだよ?」


 そんなことを言ってくるファーマーさん。その指差す先はミナトたちがこの空間に入ってきた方向とは真逆であった。


「シャーロット?三百年前って……?」


 ミナトの問いかけに頷く美人のエルフ。


「ファーマー!確認に行きましょう。もしかしたらその階段が復活しているかもしれないわ。それにを使えば地上に出ることも出来るようになるかもしれない」


「?」


 シャーロットの言葉に首を傾げるエルダーリッチであった。

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