第454話 最下層での攻防と地上の様子

『『『『『蹂躙なのでス〜!』』』』』


 二百体以上のピエールが囚われし哀れな魂アニムス・ポーパル・カプティブスという現象が支配する空間に存在する全ての植物を殲滅するため酸弾を放ち続ける。


 ミナトたちの思惑を理解したのか四方八方から木彫り状態の狼、猪、ヘラジカ、クマ、バッファローなどが襲い掛かってくる。だがピエールに物理的な攻撃はそもそも効果がないし、漆黒の外套ピエールを纏っているミナトとシャーロットにも全くダメージを与えることができずにいる。


 生き物のように襲ってくる木彫りの獣たちはミナトの短剣から放たれる剣技によって砕き散らされ片っ端から木片へとその姿を変えていた。


「ミナト!足元よ!」


 シャーロットから飛んで来る指摘に反応したミナトが足首に巻き付こうとしていた太い蔦を斬り払う。


 この蔦はなぜかミナトの索敵能力に引っ掛からない。先ほど足に巻きつかれ空中に持って行かれた際は引き千切って脱出することができた。だが魔法が使えないこの空間で大量の蔦に巻き付かれた場合、脱出が困難になる可能性がある。


 この蔦への警戒は怠らないミナトとシャーロットであった。


 そうして戦闘を重ねる一行。植物の中にはサイズのある高い木や不気味な色の花々なども存在したがピエールたちは問答無用で酸弾を放ちそれらを溶かす。


 残された植物も残り少ない。この空間がダメージを受けているのか空間がまるで生き物であるかのように微妙に震え始める。


 そしてミナトの目の前で溶かされた物体が魔法陣の光に包まれて虚空へと消える。


『あれってさっきの大きな木とか毒々しい花だったものだよね……。強い魔物じゃないことを願うことしか今はできないけど……』


 そんなことを考えながら襲ってくる木彫りの大蛇を真っ二つにするミナトであった。


 そのことの地上では……。


「防衛線からの伝令だ!戦闘の準備はほぼ整った。ダンジョンに不審な動きがあれば逐一報告するように、ってことらしい」


 彼らはルガリア王家が王国法で侵入禁止としている禁忌のダンジョン『みどりの煉獄』の入り口を見下ろせる場所で身を潜めている斥候職達。今回の事件にあたり冒険者ギルドからの依頼を受け、ダンジョンの様子を防衛線を構築している冒険者や騎士達に伝えるために集められた信頼のおける冒険者である。


 監視の拠点としたここには三人の斥候が待機していた。


「報告にも入れておいたが第一階層で大量の魔物が斃されていたからな……。これ以上なにも起こらなければ魔物がダンジョンから溢れることもない……、と信じたいものだ……」


 一人の斥候がそう呟く。


「しかしこの資料には入り口からだけじゃなく転移のような発生もありうるってあるからな。警戒するに越したことはないだろうさ……」


 もう一人がそう返し、三人目がじっと入り口付近を監視している。


 すると三人目が異変に気づいた。


「おい!あれってダンジョンのトラップとかで発動する転移魔法陣じゃないか!?」


 斥候職だけありダンジョンのトラップには精通している。即座に転移魔法陣であることを見抜いていた。


 そして魔物が姿を現す。


「防衛線に伝令だ!転移魔法陣により魔物が姿を現した。種類は……、ゴブリン、コボルト、オークが複数……、あれはオーガか?オーガも確認!警戒をと!」


 その言葉を受け待機していた一人が防衛線へと駆け出して行く。残った二人は観察を続けるが……、次々と魔法陣が出現する。


「マズい……、オークジェネラルにあっちはオークキングかよ……、なんで一つの群れに一体しかいないはずのオークキングが複数いるんだ?」


「これは報告しないとヤバい。行ってくる!」


「ちょっと待て!ありゃあなんだ?」


 斥候二人の視線の先に巨大な魔物が複数体発現する。真っ黒な鱗を纏った胴体と張り出した頭部、シュルシュルと出し入れされる長い舌と真っ赤な目をした全長三メートル以上はある蛇型の魔物の群れ……。


「俺は資料でしか見たことがないがあれはバジリスク!B級でも最上位クラスの魔物だ!それが群をなすなんて聞いたこともないぞ!?」


「この拠点は放棄だ!この情報を確実に持ち帰る!行くぞ!」


 斥候の二人は冒険者と騎士達が構築している防衛線へと情報を届けるために走り出したその瞬間、ダンジョンがあるはずの背後で凄まじい爆音が轟いた。


「お次はなんだ!?何かが降ってきたってのか!?」

「もうこれ以上は無理だ!何かの爆発音を聞いたってことで納得してもらうしかねぇ!」


 流石に爆音の原因を調べる余裕のない二人は雪の中を防衛線を目指し走り続けるのであった。

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