第455話 ダンジョンに現れた者

「ミナト!そろそろよ!いつコアが出現してもおかしくないと思うわ!」


 シャーロットがそう言ってくる。既に囚われし哀れな魂アニムス・ポーパル・カプティブスの現象に支配されている空間にあった植物の大半はピエールの酸弾によって壊滅的な状況に陥っていた。


「ピエール!その調子で全ての植物を殲滅してくれ!」


 ミナトがそう言いながらもう何頭目になるか分からないくらいの木彫りのクマを粉砕する。


『『『『『承知でス~!』』』』』


 ピエールの蹂躙劇はなおも継続される。その光景を確認したミナトは手に持っている短剣へと視線を落とす。


『まだ破損していない……。まだ大丈夫……』


 心の中でそう呟く。斬っているのは魔力で強化され操られている木材である。これほど大量の木材を粉砕するように振っていれば短剣の方が持たない筈なのだが、ミナトの手にある短剣はまだ切れ味も耐久力も十分に残されていた。それが【保有スキル】である暗黒騎士の主君によるものなのか、グランヴェスタ共和国の若き武具職人であるアイリスの職人技によるものなのかは分からない。


【保有スキル】暗黒騎士の主君:

 煉獄の首無し騎士ヘル・デュラハンが進化した首を失った闘神ヘル・オーディンを自身の眷属として相応しい形で強化し従わせる。肉体的な変化はありませんが、剣を扱う技術を習得します。最強クラスの騎士ですが常に先陣で戦う首を失った闘神ヘル・オーディンが操るそれはまさしく剛の剣。護りの剣ではなく攻めの剣です。その威力をお楽しみください。

 あ、人族である場合は身体強化をお忘れなく。非常に苛烈な剣技のため自身の身体が保てない恐れがあります。


『指輪を受け取りに行った時にアイリスに短剣を見て貰おう……、研ぎ直しが必要かもしれないし……』


 そんなことを考えながら、飽きもせずに飛び掛かってくる二体の木彫りの狼との距離を一足で詰め二体の頭部を同時に切り落とすミナト。その恐ろしいまでの剣の冴えは完全に人族を超越していると言えた。


『完了しましタ~!』


 ピエールからそんな念話が届き一体に戻ったピエールがミナトの肩に乗ってきた。どうやら空間内に生い茂っていた植物の殲滅が完了したらしい。周囲を確認するミナト。木彫りの魔物は新しく発生してはいないようだ。あの面倒そうな蔦も周囲には見られない。植物を溶かしたことがダメージになったのか空間が激しく振動する。


「ミナト!」


 シャーロットが指し示す先……、地面が気持ち悪いくらいに波打っている箇所があり、そこから虹色に輝く球体がその姿を現わした。


「あれがコアだと思うわ!」


「ということはあれを斬れば……」


 ミナトが身体強化を全開にしてコアと思しき球体へとその距離を一気に詰めようと動き出す直前、凄まじい轟音と共に囚われし哀れな魂アニムス・ポーパル・カプティブスの現象に支配されている空間の天井……、ちょうど虹色に輝くコアが出現した場所の真上が爆散した。


「!?」


 思わずその足を止めるミナト。爆発の影響で発生した粉塵がその視界を遮るが爆散した天井から一つの影が降り立ったのをミナトは見逃さない。


「何かが上から降ってきた?」


「あれは……、とてもイヤなものがやってきたみたいね……」


 そう呟くシャーロットの表情が暗い。


 視界を遮断していた粉塵が徐々に収まる。そこには……、


「羽の生えた……、ゴーレム……?あの顔って……?」


 視界に飛び込んできた光景に驚きと戸惑いを隠せないミナト。ミナトの視線の先には虹色に輝くコアと対峙するような形で人の姿をかたどった金属製のゴーレムが立っていた。しかし普通に見かける魔物のゴーレムとは異なりそこには顔がついていた。その表情がニヤリと歪む。ミナトはその顔を知っている。


「ザイオン=オーバス!?その姿は……?」


 呆然と呟くミナト。今回の原因となる禁忌のダンジョンへの侵入を行った貴族の子息がゴーレムとなって現れたのだ。戸惑う状況なのも無理はないがミナトの傍らに立つ美人のエルフはこの貴族の子息に何が起こったのかを冷静に理解していた。


「ミナト……。あの顔がついているゴーレムを覚えているでしょ……?ロビンと出会ったダンジョンにいた連中のこと……。自分をアニムス・ギアガに喰わせていた……」


 絞り出すようにして言葉を紡ぐ美人のエルフ。その拳が固く握られる。そしてそう言われたミナトも思い出す。


「アニムス・ギアガに自分を喰わせてゴーレムになった?」


「いえ……、あの様子だと自我を保っているようには思えない。きっと無理矢理エサにさせられたんでしょうね。黒幕のから不要と判断されたってところじゃない?」


「ってことはあのザイオンの裏に居たのは……」


「東方魔聖教会連合の関係者ってことは確実でしょうね」


 美しい顔を歪ませたシャーロットが吐き捨てるようにそう答えるのだった。

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