第448話 王都南西の雪原にて……
ここは王都南西に広がる雪原。温かい季節であれば広大な草原が広がっているのだが、今は一面の銀世界が広がっている。そんな雪原の雪が深くない箇所を探し冒険者と騎士が防衛線を築いている。
季節が冬のため物資の移動には制限がある。逆茂木や土嚢といったものは用意できないが王城が王都にある各研究施設から土魔法が使える者を招集してくれた。現在、彼等が全速で最低限の土壁や石壁を造り出してくれている。彼等ら必死に飲んでいる魔力の補充ができるポーションは王城が街で販売されているほぼ全てを買い上げて運んできたものらしい。
三百年前の記録では大量の魔物が王都に押し寄せたことで甚大な被害が出たと記録されている。そんな歴史を繰り返すわけにはいかない。冒険者も騎士も派遣された魔法使い達もその思いは共通していた。
「もう少しで予定の壁が全て完成します」
簡易に建てられた天幕の下でそんな報告を受けているのはA級冒険者のティーニュを筆頭とした王都で活躍しているB級冒険者とC級冒険者パーティのリーダー達だ。ここは冒険者達の指揮官役が集まる言ってみれば冒険者達の作戦本部である。
「王城からも冒険者ギルドからもありったけの大盾を持ってきた。壁の完成も間に合いそうだし冒険者と騎士の大盾使いを並べれば前線を保つことはできるだろう。一応、騎士達とは一緒に仕事をしたことがある連中以外は別々に配置している。ちらっと見てきたがここに集まっているのは二大公爵家のどちらかの紋章を纏っている直属の騎士と王国騎士団の一つである麗水騎士団の連中だった。あの連中は上からの命令には本当に忠実だからな。冒険者と協力しろと命じられれば変なことはしない。上手くやっていけるだろう」
そう報告するのはB級パーティ
二大公爵家直属の騎士はもちろん優秀だし、麗水騎士団は王国騎士団の一つであり二大公爵家の一つであるウッドヴィル公爵家が管理している騎士団である。カーラ=ベオーザのようにウッドヴィル公爵家直属の騎士であると共に麗水騎士団の副団長を務めるような者もいる。彼等の殆どが貴族家の出身であるため平民出身の多い冒険者達をどのように見ているかは難しいところだが、彼等は総じて任務には極めて忠実である。仕事に関しては信頼できる騎士というやつだった。
「壁の製作に協力してくれた魔法使いの中で攻撃魔法が使える者は残ってくれるそうだ。大盾使いが接敵する前に少しは魔物の数を間引くことができそうだぜ」
ウィルがそう続ける。
「その方針でお願いします」
そう応えるのはA級冒険者のティーニュ。集められた冒険者達の中で唯一人のA級冒険者。彼女自身は対人戦の方を得意としているが魔物相手でもここに居並ぶ冒険者の中では誰よりも強い。彼女こそ今回の切り札といえる存在だった。
「魔法を打ち込んで数を減らし、第一陣はC級、D級の冒険者で凌ぎきる。三百年前の記録じゃその後から強い魔物が来たって話だ。俺達の出番はその辺りだろうな……」
「そうですね。記録では複数のオーガが出現したとか……。その辺りは私が対応します。序盤は皆さんにお任せすることになるでしょう」
ティーニュの言葉に集められた冒険者達も頷いて返す。そんな話をしていると天幕に数人の斥候職の冒険者が姿を現わした。
「『
ティーニュの問いに頷く冒険者。
「ああ。麗水騎士団から副団長のカーラ=ベオーザ様を含めた数人が同行してくれてな。『
その報告に天幕内の冒険者達が顔を見合わせる。
「第一階層はどうでした?」
冷静にティーニュがそう問いかけると、
「第一階層にあったのは夥しい数の魔物のドロップ品と思われるアイテムの山だった。どうやら入り口付近に大量の魔物がいてそれを潜った冒険者達が殲滅したらしい。俺にはあまり信じられない話だがな……」
とある冒険者パーティが踏破のために『
「それは王城と冒険者ギルドが依頼した冒険者パーティの仕事に他なりません。入り口付近の魔物は殲滅されていることから直ぐに魔物がダンジョンの外に出てくるリスクは少なくなったかもしれませんが、冒険者ギルドからの情報ではダンジョンから魔物が溢れる場合は入り口から出てくる以外にも転移のような形で出現する可能性もあるとのことでした。警戒を続けてください!
「分かった。『
ティーニュの言葉に斥候達が反応し踵を返して再び『
「え……?」
そんな状況で天幕にいたティーニュがそう呟くと慌てた様子で外に飛び出す。そうしてティーニュは空を仰ぎ見る。冬の曇り空……、あまりよい天気とは言えない。今にも雪が降ってきそうである。
「ティーニュさん?どうしたんだい?」
そう声をかけるのはウィル。ティーニュの突然の行動に
「……分かりません……。何か……、大きな魔力を纏ったものが南西へと飛んで行った気がして……」
「鳥型の魔物ってことかい?」
ウィルからのその問いかけに答えることなくティーニュは鋭さと戸惑いが入り混じった視線で南西の空を見つめ続けるのであった。
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