第437話 駆け付けた二人の重鎮
会議室に響く大きな声。その声をミナトはよく知っている。冒険者をしているがミナトの本職はバーテンダーである。常連さんの声を忘れることなどありはしない。
「何故……、お二人がここに……?」
A級冒険者のティーニュに威圧され、シャーロットに絡んだことでその命の残量が風前の灯火以下になっているはずのザイオンは顔面を蒼白にして驚愕している。
「何故と聞かれると陛下より命を受けたからというのが正確かのう?」
「よりにもよって侯爵家の子息に王国法を犯した嫌疑が浮上したのです。騎士団も動くし私たちも動きますよ?」
何を今更といった様子で驚愕しているザイオンにそう返すのは、老境に差し掛かっている二人の男性。しかし二人から感じる威厳ある態度はその手中にある権力が些かも衰えていないことを示していた。
一人は深い皺と真っ白な髪と髭がその年齢を感じさせるにも関わらず、細身ながらもしっかりとした体つきを感じさせる老人。ここルガリア王国で二大公爵家の一つとされるミルドガルム公爵ウッドヴィル家の先代当主であるモーリアン=ウッドヴィルその人である。
もう一人はロマンスグレーという表現がぴったりくる中肉中背である初老の男性。やや神経質っぽい佇まいだがその眼鏡越しの鋭い眼光は彼が相当な切れ者であることを感じさせる。彼こそがルガリア王国における
そして会議室の外から感じる多くの気配。二人はかなりの数の騎士を伴ってこの冒険者ギルドまでやってきたらしい。率いている者の気配を探るとミナトも知っている女性騎士カーラ=ベオーザのものである。彼女が騎士達を率いているというところがこの件にウッドヴィル家が本気で関わっていること感じさせた。
『モーリアンさんと宰相さんが出てきちゃった……。二人ともルガリア王国の重鎮だよね?これって王家の意向かな?『
ミナトがそんなことを思っていると、
『ふん……、お店の常連さんの頼みを無碍には出来ないわ。命拾いをしたわね……』
そんな念話と共にシャーロットの手から不可視の風の刃が魔力の粒子となって霧散する。ちなみにシャーロットによる一連の魔力行使に気付いていたのはミナトとピエール、そしてチラリとこちらに視線を送ってきた宰相ハウレット=フィルグレイのみである。この宰相さんはシャーロットによるとA級冒険者であるティーニュと同じくらいの魔法の実力があるらしいとのことだった。
『ふう……。この国の貴族ってウッドヴィル家とか王家の人としか直接は会ったことがないけれど、あんな連中がいるのか……。さっきは命拾いをしたけど、あれはもう変われない気がする、っていうかこの後にあいつが厄介ごとを引き起こすなんて展開が……』
『ミナト!それってあなたの世界でいうふらぐってヤツじゃないの?』
『ヤバいかな?』
『安心しなさい。アイツごときの悪意なんてこの私が砕き散らす!その時は確実な死を与えてあげることにするわ!』
そう言って笑顔を向けてくる美人のエルフ。
『ワタシが
ピエールもそんな念話を飛ばしてくれる。
『ピエールちゃんが
ミナトたちがそんな念話のやり取りをしていると、
「どういうことですか?この私が一体何をしたというのです!?」
あからさまに狼狽してみせるザイオン=オーバス。
「トリリグル侯爵オーバス家次男、ザイオン=オーバス殿。あなたには禁忌のダンジョン『
懐から書類を取り出し、ザイオンに見せつつそう説明する宰相さん。どうやらザイオンは王命を使われて冒険者ギルドへと誘い出されたらしい。
「容疑をかけられている状態じゃが、今は時間が惜しいのじゃ。既にお主と共に『
宰相さんに続いてモーリアンもそう続ける。その姿にはこの国の重鎮らしく有無を言わせぬ迫力があった。青かった顔を土色に変化させながらザイオンが震え上がる。
『なるほど……。国の重鎮二人と王命を使ってまでも王家としては対策にあたる冒険者達に『
『やっぱりこの国の王家やまともな貴族は暮らしている民衆や冒険者のことをよく考えているようね……』
シャーロットの念話に思わず頷いてしまうミナトであった。
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