第436話 貴族の子息がシャーロットを目にすると
普段の穏やかな物腰とは全く異なるティーニュの様子に会議室に集まった冒険者達が息を呑む。立ち上がったティーニュの表情はフードに遮られており確認できないが、その視線はルガリア王国トリリグル侯爵オーバス家の次男であるザイオン=オーバスと名乗った男に向けられているようだ。
「聞こえませんでしたか?冒険者なら実力で語りなさいと言ったのですが?」
口調は物静かだがその小柄な身体から漏れ出す魔力は強烈な威圧感を与えていた。
『この迫力はさすがA級冒険者といったところかな?』
『人族であそこまで辿り着くのは大変よ?これからもロビンの指導を受けるんでしょ?彼女ならかなりのところまで到達できるかもしれないわね……』
ティーニュを前に真っ青になっているザイオン=オーバスを尻目にそんなことを念話で話しているミナトとシャーロット。
「立場を弁えぬ平民どもが……、侯爵家の不興を買う意味を分かっているのだろうな?」
苦し紛れの言葉だろうがそう言われた会議室に集まっている他の冒険者達の表情が曇る。彼等はオーバス家……、というか貴族という存在の厄介さを考えているのかもしれない。
そんな状況下でもじっとザイオンから視線を外さずに威圧を続けるティーニュ。会議室の中が一種の膠着状態の様相を見せ始めていると、
「あれ?そーいえばカレンさんは?」
周囲の空気を全く読んでいないかのようないつものトーンでミナトが口を開く。現状をちょっと面倒だと感じたのかもしれない。とりあえずこういった場を収めるためには優秀なギルド職員であるカレンさんが必要なのだがいつの間にか会議室からその姿を消していたためにそう言ってみたミナト。。
「気付かなかったの?あのバカが水浸しになった時にこの部屋から出て行ったわよ?」
「素早い身のこなしでしタ~」
ミナトの言葉に呼応するかのようにこれまたいつものトーンでシャーロットとピエールが返す。シャーロットに至っては既に侯爵家の次男をバカとして認定済みだ。途端にティーニュとザイオンが集めていた周囲の視線がミナトたちに集中する。集まってくる視線に込められた意味を解釈するとすれば……、
『ヤバい……』
くらいが適当だろうか。この会場に集まっているのは王都でも上級と呼ばれる冒険者達である。ミナトとシャーロットの真の力を知らない者など一人もいない。シャーロットにちょっかいを出すことの無謀さについても全員が正しく理解している。
「あ?」
ティーニュからの威圧はどこへやら……、といった感じでシャーロットの容姿を確認したザイオンがよせばいいのに反応する。
「ふふん。エルフではないか?希少種族がこんな下賤の者共の中にいるとは珍しい。よかろう。そのエルフを私に差し出すがよい!そうすれば此度の不敬については無かったことにしてやるぞ?エルフの女よ!これからは侯爵家の屋敷でこの俺様が存分に可愛がってやる!俺様のものになれる機会に恵まれたことに感謝するのだ!」
下品で気色の悪い笑みを浮かべながらそんなことを言ってきた。周囲の冒険者は驚愕の表情かつドン引きである。
「おい……、最近は見かけなかったけど……」
「ああ、これはマズいんじゃないか?」
「おいおい、あんな風に絡んだ奴、見たことないぜ?」
「死ぬ一歩手前は確実だな……」
「とばっちりがこわい?」
「逃げるか……?」
「逃げるっつったってよ。どこに?」
「そうだぜ?うっかり嬢ちゃんの射線上に入ったら死ぬぞ?」
「おい!貴族様よ……、悪いことは言わないから……」
「前言撤回して謝罪した方がいいぞー」
「おれもそう思う。忠告はしたからな……」
驚愕の表情のまま固まっている冒険者達からそんな言葉が漏れ聞こえてくる。ちなみにミナトは会議室の天井を遠い目で見つめていた。もうシャーロットに任せるらしい。シャーロットもピエールもミオ程ではないが回復魔法を使うことができる。死人はでないと思いたいミナト。
「面白い……、この私にそこまで言ってくる貴族は久しぶりかもしれないわね……」
ゆらり……、とシャーロットが立ち上がる。その視線に込められてた殺意がちょっともの凄い。
『あの……、シャーロットさん?殺すのはちょっと……』
念話を飛ばしてみるミナトだが、
『大丈夫!即死にはさせない!それだと苦痛を味わう時間が短すぎるものね』
凄絶な笑みを浮かべつつ念話による返答と共にシャーロットが右の掌を上へと向ける。次の瞬間……、何も起こらない……、と周囲の冒険者は思った。しかし闇魔法Lv.MAXであるミナトはシャーロットの右手に浮かんだ三日月形の風魔法による四枚の刃があることをしっかりと視認していた。
『あれは
ミナトがそんなことを考えていると、
「そこまでじゃ!シャーロット殿!ここは儂等の顔に免じて抑えて下され!」
老齢でありながらも重厚感を感じさせる声が会議室全体に響くのであった。
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