第435話 貴族の子息の冒険者
ここは冒険者ギルドの会議室。ミナトの視線の先にはザ・貴族の子息といった風貌と装いの若者が一人。その表情からはこれでもかといったくらいの傲慢さが滲み出ている。
『これはゼッタイにオトモダチにはなれそうにない……』
これがミナトの素直な第一印象である。会議室に集められた冒険者達も顔を顰めている者が殆どだ。
「それで?この俺様に一体誰が何の用なんだ!?つまらない内容なら……、分かっているんだろうな?」
会議室に居並ぶ冒険者達を前にそう言って睨みを利かせるかのように視線を送ってくる貴族の子息らしい若者。
カレンさんが席に着かせようとしているが聞く耳を持つ気はないらしい。
『こんなテンプレ貴族もやっぱりいるんだね』
王家の儀式である『王家の墓への祈り』の依頼の際、策を弄してきた貴族家はあったが、そういったクズな貴族との直接的な面識はこれまでなかったミナトである。ミナトの知っている貴族というとルガリア王国の二大公爵家か王家の面々ある。彼等はこの国の上に立つ者としての態度は取るがここまで不快感を与えるようなことはしない。彼等のその言動は常に
特に、絶対怒らせてはいけないミナトたちには極めて紳士的だ。貴族として驚異的な力を持つミナトたちをこの国に繋ぎ止めるため、という打算があることはミナトたちも理解しているが、それでもミナトたちは彼等の態度に好感を持っている。
だが会議室に入ってくるなり威張り散らしまくりなこの態度、
『民あっての貴族ということが理解できていないのかもしれないけど……、でもそれはもうダメだ。そしてここまで相手に不快感を与えることができるというのもある意味才能かもね』
などとミナトが思っていると、
『貴族って時々こんなクズを生み出すのよね。言ってくれたらいつでも
『酸弾を撃ってもイイですカ?』
念話が飛んできた方向へと目をやると、シャーロットとピエールが既にヤル気であったため慌てて念話で諫めるミナト。念話でわちゃわちゃと身内の怒りを鎮めていると、
「おい!お前!そのフードを上げて顔を見せろ!」
件の子息がフードを目深に被ったティーニュに興味を惹かれたようだ。
「
フードを下ろしたまま相手の言葉を拒絶するティーニュの声色は普段の温厚なものとは全く異なり相当に冷たい。どうやら彼女も男の態度をかなり不快に感じているようだ。
「ほう……、女か?何者だ?名を名乗れ!」
シャーロットに面と向かって言っていたらミナトが止める前に
『デボラだともう消し炭にされているし、ミオなら氷像にされている。ナタリアは優しいからこの場はスルーするかもしれないが模擬戦を申し込んでギタギタにするかもしれない。オリヴィアなら五枚に下ろされ、ピエールなら酸弾で跡形もなく溶かされているだろう。ロビンは堂々と決闘を申し込んで一刀両断にするかな……』
ふとそんな物騒な光景を想像してしまうミナト。ティーニュは貴族との付き合いも多いA級冒険者だからいきなりメイスで殴打とかはないだろうと思っていると、
「他人に名を尋ねるときはまず自分から名乗るべきだと習わなかったのですか?そのような態度で貴族だとは……、貴族が聞いて呆れますね」
「ふん。聞いた後で吠え面をかくなよ?俺様はこのルガリア王国が誇るトリリグル侯爵オーバス家の次男ザイオン=オーバスである!不敬者どもが!とっとと平伏を……」
バシャ!
貴族の権力を振りかざそうとした貴族の子息であるザイオン=オーバスの顔面に一個の
「侯爵家とはいえ貴族家の次男など跡継ぎになれない唯の人族ではないですか?そんな何者でもないお前が何を偉そうにしているのですか?」
「冒険者なら実力で語りなさい!お望みでしたらいつでもお相手をして差し上げますが?」
『思っていた以上に怒ってた……』
ティーニュの予想外の対応に驚きを隠せないミナト。周囲の冒険者達も同じらしく一同仲良く驚愕の表情で固まっていた。
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