第433話 カレンさんの説明では……

 カレンさんの話によると、ルガリア王国の王都近郊には秘匿され潜入禁止とされている『みどりの煉獄』というダンジョンがあり、そこに侵入した者がいたらしい。


 そして、その結果として大量の魔物が王都に押し寄せる可能性があるという。


『王家が秘匿していたダンジョン?そんなのがあったんだ?』


『私も知らなかったわ。この国が建国されてから随分と経つけど、私も王都には数えるほどしか来ていなかったし、そんな話は聞いたことないわね』


 ミナトの念話にシャーロットがそう返してくる。


「?」


 ピエールは可愛らしく首を傾げている。


「カレンさん!俺もこの王都で活動してなかなかに長いが『みどりの煉獄』なんてダンジョン聞いたこともないぜ?」


 そう問いかけたのはB級冒険者パーティの鉄の意志アイアン・ウィルでリーダーをしているウィルだ。A級冒険者のティーニュを除けば王都で有名な冒険者パーティのリーダーである彼がここに集められた冒険者達の代表といって差し支えないだろう。


「ウィルさんがそう仰られるのも当然です。私も今回の出来事とギルド内にあった三百年前の資料を照らし合わせて王城に確認を取ってようやく確信に至りました」


『カレンさんってやっぱりかなり偉い人だよね?絶対普通の受付嬢じゃないはずなんだけど……』


 ウィルの問いかけへの返答を聞いたミナトがそんなカレンさんと出会った当初からずっと引っかかっている素朴な疑問を念話にして、シャーロットたちに飛ばす。


『そうね。だけどカレンさんはその辺については教えてくれないみたいよ?とりあえず私たちがよくしてくれるからそれでいいんじゃない?』

『カレンさんはいい人でス〜』


 二人からそんな念話が返ってきた。どうやら二人ともその辺には興味がないらしい。


「もう少し詳しく情報をお伝えします」


 カレンさんが話を続ける。


「本日の午前、とある冒険者の方から冒険者ギルドへ野菜と薬草類が大量に持ち込まれたのです。野菜や薬草が不足するこの冬の時期ということもあり、担当した者はすぐに買い取りの対応を行いました。ご存知のように持ち込まれた野菜と薬草は魔道具によって鑑定されます。今回、野菜に関しては安全を確認後、新鮮だったこともありすぐに市場へと運び込まれることになりました」


『珍しいことだけど、問題がある行動というほどでは……?』


 心の中で、そんなことを呟くミナト。この時期、新鮮な野菜や薬草を入手することは難しいが、それが冒険者の秘密というのであれば下手に追求することも良くないこととされている。おそらく会議室に集められた冒険者たちも同じことを考えているだろう。


「しかし問題は薬草の方でした。報告書を受け取った私はその内容に違和感を覚えたのです。薬草と判別されたリストで値が付かず見逃されていた植物の中に魅惑の春ヴェヌスタス・バレと呼ばれる苔類がありました」


 会議室に集められた冒険者たち全員がカレンさんの言葉に首を傾げる中……、


『それはちょっとおかしいわね……』


 シャーロットによる心の呟きが念話となってミナトに届いてきた。


『シャーロット?』


 思わず問い返すミナト。


『ミナトは知らないかもしれないけど、あの苔って……』


「皆さんはご存じないかもしれませんが魅惑の春ヴェヌスタス・バレは普段は値の付かない苔ですが、ごく稀に発生する病に対する特効薬の材料としてギルドには記録されているのです。そしてこの苔には春の暖かい日にしか採取することができず、魔道具による保管が不可能という特徴が知られているのです」


「「「「!?」」」」


 冒険者達が顔を見合わせる。今の季節は真冬である。少なくとも、何か異常なことが発生しているらしい。


「そして春という季節以外でこの王都に魅惑の春ヴェヌスタス・バレが持ち込まれた記録は一度しかありません。三百年前の冬、後に『みどりの煉獄』と呼ばれるようになったダンジョンから魅惑の春ヴェヌスタス・バレと共に複数の野菜と薬草類が持ち込まれたのです。その後、殆ど時をおかずに『みどりの煉獄』から溢れ出た大量の魔物が王都へ侵攻し多大な被害を出したとの記録が残っています」


 その言葉に会議室へと集められた冒険者達の表情が真剣なものとなる。


『モンスターパレード?それともスタンピードかな?厄介なことになるのかな……』


 心の中でそう呟くミナトであった。

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