第432話 冒険者ギルドでは?

「これは一体どういう状態?」


 随分と慣れ親しんだ王都の路地をすり抜けて冒険者ギルドへと到着したミナトの第一声である。既に夕日のほとんどは山の端に隠れ王都に夜が訪れようとしている時間帯だ。


 ミナトよく知っているホールは冒険者で溢れていた。朝早い依頼の取り合いとなる時間帯どころか、新しいダンジョンが発見された時もここまでは混雑していなかったはずである。


「ミナト!きてくれたのね?」

「マスター!少し久しぶりでス」


 よく知っているニ人の美しい声がミナトの耳に届いた。声のする方向に視線を向けると、そこには絶世の美貌を湛えたエルフと可愛さと可憐さを感じさせる少女と表現することも憚られる美しくも幼い女の子の姿が……、


「シャーロット?ピエール?」


 二人との思わぬ再会に少し驚いてしまうミナト。


「よかった。連絡を受け取ってくれたのですね?」


 ミナトの背後から安堵した声がかかる。冒険者ギルドで受付嬢しているカレンさんであった。


「えっと……、ごめん。状況が全然わからない……。王都に帰ってきてから店に戻らず直接ここに来たんだけど……」


 状況が把握できなくて困惑した表情を浮かべるミナト。


「実はミナトさんにダンジョンに潜って頂くことになるかもしれません」


 カレンさんがそう言ってくる。


『昨日までは何事もなかったはずだから、今日何か問題でも起こったのかな?』


 念話をシャーロットとピエールに飛ばしてみる。


「私たちもカレンさんに呼ばれたのよ。ダンジョンに潜る可能性があると聞いたからピエールちゃんも連れてきたわ」


「マスター?ダンジョンに潜りますカ?」


 まだ現状がよく分からないが、屋敷の建設現場にいたはずのシャーロットたちとカレンさんは何らかの方法で連絡をとっていることは理解したミナト。


「ふふん。大丈夫!ちゃんとみんなでしーっかりとオハナシをして私に決まったわ!今朝のロビンの姿を見て全員ちょーっと本気になったけど……、全然問題なかったわ!」

「ミオ様が治療とイイますか蘇生された親方さん達は地獄を見たって言ってまシタケド……」

「あはは!それはピエールちゃんの気のせいよ!」


 何やらみるみる内に不安が増大する。ミナトの顔色が少し悪い。昨夜、ロビン一人だけ三番目の愛人を相手にしたのはちょっとマズかったかもしれないなどと今更ながらに思ったりしてしまっている。


「申し訳ありません。私も焦りすぎていて言葉が足りませんでした。端的に言ってミナトさんのお力を借りたい事態が発生しそうなのです!」


 そんなミナトの心境に気付くはずもないカレンさんの目は真剣そのものである。


「現在、D級以上の冒険者の皆さんに緊急招集をかけている状態です。C級までの皆様にはこのホールに、より高位の冒険者の皆様には会議室へと集まって頂いています。当事者となった人物が到着するまでにはまだ時間がありますが、事前に状況を説明させて頂きたいと思いますのでミナトさん達も会議室へ来て頂けますか?」


『もちろん依頼を受けるかはミナトさんにお任せします。シャーロットさん達もミナトさんが依頼を受けることが協力の条件だと最初から仰っていますし』と言うカレンさんの言葉を確認した上でミナトは会議室へと赴くことを決める。不安を全て無かったものという前提で行動しているがそれが正解かは今のミナトには分らない。


 王都の冒険者ギルドにある会議室。ミナトもここには来たことがある。カレンさんに促されて入室すると、既に多くの冒険者達が集まっていた。


 ざっと見る限り顔見知り程度には知っている王都のB級冒険者達だ。ただより戦闘に特化したパーティを集めたという印象がある。


 さらにB級冒険者パーティの鉄の意志アイアン・ウィルとA級冒険者のティーニュも集められていた。鉄の意志アイアン・ウィルのリーダーであるウィルが手を振ってくるので軽く返すミナト。


『さてと何が起こったのかな?』


 空いている席について心の中でそう呟くミナト。ちなみにこの場で、


「なんでこんなところにF級の冒険者が!」


 と突っかかってくるものは一人もいない。主にシャーロットたちが(物理的な)お話し合いをこまめに続けてきた成果である。王都は下位の冒険者にとても優しい街になったのだ。


「皆さん!この遅い時間帯にお集まり頂き誠にありがとうございます」


 そうしてカレンさんの話が始まった。


「発端となった出来事の当事者はまだギルドに到着していませんが、先ず現状を共有させて頂くことにします」


 一体何が起こっているのか……、全員がそこに注目した時、


「実は、ルガリア王国で秘匿され潜入禁止とされていた王都近郊のダンジョン『みどりの煉獄』に侵入した者がいたようです。その結果として大量の魔物が王都に押し寄せる可能性が出てきました」


 一瞬にして、会議室に緊張が走るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る