第431話 帰宅途中にお買い物

「いやー、美味しかった。満足、満足!」


 遅い昼食を十分に堪能したミナト。今日一日の予定を終えてルガリア王国の王都へ戻ってきた。冬の夕日に照らされる王都の街並みは見事なまでに美しい。


「フライドオイスターズロックフェラーは本当に美味しかった。今度のみんなとの夕食の時に作ることにしようかな……。よし!そうと決めたら食材集めだ」


 グトラの街は牡蠣が名産だったらしいが、王都でも牡蠣を購入することができる。あの完全クリスピーいっぽ手前のジューシーに揚げられた牡蠣。それとほうれん草のみじん切りを加えられたベシャメルソースとの相性。そして上からかけると、トマトソースのアクセント。その全てが完璧に調和して、見事な味のハーモニーを奏でていた。これはどうしても再現してみんなと一緒に楽しみたい。


「ちょっとマルシェに寄ってみますか……」


 今日も王都の街は盛況なようで近くの小さなマルシェにも活気が溢れている。


『えっと……、魚介を扱っている店ってあるかなぁ?』


 自身の店へと帰る道中にあった活気あふれるマルシェの一角を覗いてみるミナト。


「おお、結構いろんな種類がある。貝はあるかな……、目当ては牡蠣なんだけどマテ貝とかあったら買ってしまいそうだ。あ、ムールとかあっても嬉しいかも……」


 するといい感じに大きな牡蠣が笊に積まれて売られていた。


「兄さんお目が高い!こいつは今朝取れた牡蠣を大河ナブール通して運河経由で運んできた逸品だ。王都でこれ以上の牡蠣はなかなかお目にかからないよ?ほれ!」


 そう言って、店員さんが試食のために牡蠣を一個開けてくれた。半分に切ったレモンを絞って渡してくる。遠慮せずに受け取ったミナトはその大振りの牡蠣の身をちゅるんと一口で頬張ると……、


「あー、これは美味しいやつだわ……。すいません。これ全部ください!」


 口腔一杯に広がる牡蠣の旨味と甘み。グトラの街で先ほど食べた生牡蠣にも劣らない程に美味であったので即決で牡蠣の購入を決めたミナト。お金には困っていないし、ミナトの【収納魔法】である収納レポノなら牡蠣が痛む心配もない。


【収納魔法】収納レポノ

 時空間に作用し、アイテムの収納、保存を可能にする術者が管理できる亜空間を作り出します。アイテムを出し入れするゲートは術者を中心とした半径二メートル以内で任意の場所に複数を設置可能。時間経過なし。意思・意識のある生物に関しては収納に本人の同意が必要、ただし亜空間内は快適ではないのでご注意を。亜空間はとても大きいのでご自身でのご確認をお願いします。ちなみにゲートから武器を射出するような運用も可能だったりします。かなりの威力です。攻撃もできた方がカッコいいでしょ?


 その購入した量に驚いている店員から牡蠣を受け取るとミナトは魚介が中心だったこのマルシェを後にし、野菜を探して他のマルシェへと移動する。


「お、このマルシェは野菜が中心かな?ちょうど良いほうれん草はあるかなぁ……」


 そう呟きつつたまたま視界に飛び込んできたマルシェを覗いてみるミナト。王都は流通の発達した大陸有数の大都市の一つではあるが、さすがに季節が冬となると野菜の流通は減ってしまう。だが、このマルシェでは新鮮な野菜を取り扱っているようだ。


「すごい……、どれも美味しそう……」


 思わずそんな感想が口をついて出てしまう。


「どうだい?どれも新鮮そのものさ!」


 ミナト覗いた店舗の主らしき男性が胸を張ってそう言ってくる。


「これはどこかから持ってきた野菜なの?それとも秋から保管していたとか?」


 王都の周辺にこの時期、野菜が採れるような畑はなかったはずである。であれば王都の少し離れたところを流れる大河ナブールから運河経由で運ばれてきたのか、グランヴェスタ共和国のように野菜を保管できる魔道具を使用したか……。


「ふっふっふ。そいつは商売上の大事な秘密……、と言いたいところだがお前さん見たところ冒険者だろ?なら秘密にしてもすぐにバレるってもんだ。こんな新鮮な野菜を扱うのは俺も今日が初めてでよ。こいつは冒険者ギルドを通して馴染みの冒険者から仕入れたのさ。なんでも、冒険者ギルドの方ではちょっとした騒ぎになってるらしい」


 そこまで秘密にしてもしょうがないといった様子で教えてくれた店主。


『異世界ファンタジーのラノベで読んだことがあるパターンならダンジョンで野菜を育てているとか?それとももう少し現実路線だとどこかのダンジョンで魔物を斃すと野菜がドロップするってことが発生した?』


 昨日、ロビンと冒険者達の訓練に同行した時、受付嬢のカレンさんは何も言っていなかった。とすれば本当に今日の今日で何かがあったらしい。ま、何があったにせよ冬場に新鮮な野菜があるのは嬉しいことだと言える。品質に関しては冒険者ギルドで安全であることが鑑定済みと言われたので、その店で売っていた瑞々しいほうれん草を購入したミナトはその足で冒険者ギルドを目指すのだった。

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