第430話 これはアメリカ南部の料理?
ここは、グトラの街にある小さな食堂。この時間帯は、夜の料理も出してしてくれるということで、ミナトはドワーフのおばちゃんにお願いしてメニューを持ってきてもらう。
「さてとどんな料理があるんでしょうか……」
そんなことをつぶやきつつ、ミナトはメニューへと視線を落とす。
「生牡蠣、蒸し牡蠣、腸詰のスパイス煮込み、ウミガメのスープ、脱皮直後のカニの揚げ物、エビの煮込み、牡蠣のオーブン焼き、それと牡蠣のオーブン焼き我が家風?これは何が違うんだろう?」
とりあえずメニューを上から読んでみるミナト。メニューの先は長いがとりあえず今日のところはこの辺りから選ぼうと考える。以前この店訪れた時、ミナトはシャーロットたちと生牡蠣とオイスターズロックフェラーを食べた。そこから察するにこの店はミナトがいた世界のアメリカ合衆国南部の料理に酷似したものを出すらしい。
『その事実を踏まえて類推するのなら……』
「生牡蠣と蒸し牡蠣はいいとして、腸詰のスパイス煮込みは多分ガンボだ。ウミガメのスープは、そのままウミガメのスープ。脱皮直後のカニの揚げ物はソフトシェルクラブか。エビの煮込みはザリガニじゃないけれど、きっとクロウフィッシュエトフィだ。牡蠣のオーブン焼きがオイスターズロックフェラーでしょ?そうなると牡蠣のオーブン焼き我が家風ってなんだろう?」
メニューの料理メニュー、アメリカ合衆国の南部料理の名前を当てはめてみるミナト。多分うまいこと当てはまったと思うのだが、牡蠣のオーブン焼き我が家風だけがうまく南部料理にはまらない。
「これだけは聞かないとわからないかな?すいません!」
「決まったかい?」
ミナトはドワーフのおばちゃんに来てもらいメニューに関して確認する。教えて貰った料理の内容は概ねミナトの解釈と一致していたのだが、
「牡蠣のオーブン焼き我が家風ってどういう料理ですか?」
「牡蠣のオーブン焼き(ミナトの言うところのオイスターズロックフェラー)はこの前食べてくれただろ?あれはほうれん草のソースを牡蠣の上にのせてオーブンで焼くんだけどこっちのはちょっと作り方が違うんだ。まず、牡蠣に衣をつけて揚げる。そして牡蠣の貝殻に小麦粉と牛乳、そしてほうれん草を刻んだものを混ぜたソースを入れそこに揚げた牡蠣を投入して、生牡蠣にも使う赤いソースをかけてオーブンで軽く焼き目をつけた料理だよ。私はこっちの方が好きかもしれないね」
その説明にミナトは一つの料理名を思い出した。
『フライドオイスターズロックフェラー!そうだ、それを忘れてた!とても我が家風ではわからなかったなぁ。それにしてもオイスターズロックフェラーだけじゃなくて、フライドオイスターズロックフェラーまであるなんて!』
心の中で、そう感激しつつ、ミナトはオーダーを決定する。
「最初はエールを頂きます。それに生牡蠣を。生牡蠣は何個から……」
「いくつからでも大丈夫だよ」
「それでは六個でお願いします。それとウミガメのスープ、そして牡蠣のオーブン焼き我が家風をお願いします。エールの後はワインを頂きますね」
「お兄さんはこの料理をよく知ってるんだね?人族でそんな注文する人はまずいない。いい注文だ。楽しみに待っておいで!」
そう言って笑顔と共にドワーフのおばちゃんは厨房と消えていった。
待つこと数分……。
「おまちどおさま!エールと生牡蠣だよ。ウミガメのスープもすぐできるからね。牡蠣のローストはもう少し待ってちょうだいよ」
ガラスのジョッキに注がれた琥珀色のエールと六個の生牡蠣。とりあえずジョッキを持って一人で乾杯するミナト。
「うーん!やっぱりエールは美味い。またラガーには出会えていないけど……、次の夏までにはラガーに出会っておきたいなぁ」
そんなことを呟きつつ白い皿に並べられた六個の生牡蠣へと視線を向ける。やはり牡蠣は冬が旬ということなのだろうか、その身はふくふくとしてとても美味しそうだ。そして横に添えられているソースの赤がとても映える。生牡蠣には白ワインが一般的かもしれないが、エールと一緒に食べる時はこのトマトベースのサルサ系ソースがとてもよく合うのだ。
「美味い!」
それが生牡蠣を食べた時の素直な感想というものである。そうしてエールと生牡蠣を存分に味わっていると、
「おまちどおさま!ウミガメのスープだよ」
その言葉と共にスープ用のカップがミナトの前に置かれる。ほんの少し緑色がかかったような色合いだが、とてもカレーに近い雰囲気をした料理。ミナトがアメリカ南部の街ニューオーリンズで食べたウミガメのスープにそっくりであった。
スプーンですくって口へ運ぶ。その味わいは…… 、
『そうこんな味だった……。スパイスがよく効いていてこの肉がウミガメかどうかがよくわからないんだよね。そこまでウミガメを食べたことないから、今日のウミガメって美味しいですよね、とかって言えないあたりもあっちの世界で食べたのと同じだから懐かしい。そして惜しいのは未だシェリー酒に出会えていないことだ。シェリーを入手したら持ち込ませてもらって、必ずこのスープにかけて食べよう』
ウミガメのスープにシェリーを少量を垂らして食べるのはニューオーリンズにある某有名料理店の定番である。その再現を密かに心に誓うミナト。
追加でグラスの白ワインを頼み、生牡蠣とスープを堪能していると、
「はーい!おまちどおさま!これが牡蠣のロースト我が家風さ!召し上がれ!」
牡蠣の貝殻に満たされたほうれん草入りのベシャメルソース。そこにフライドチキンで使われる衣を纏って揚げられた牡蠣が投入され、その上から赤いソースがかけられている。鼻腔をくすぐるその香りがたまらない。
そんなフライドオイスターズロックフェラーを前にとびっきりの笑顔になってしまうミナトであった。
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