第429話 グトラの街の食堂で
「焼き鳥一本だとちょっと少ないけど
そうして焼き鳥を楽しんだミナトは本命である牡蠣料理を求めてグトラの街を大きな通りを歩いていた。
「この前に立ち寄った食堂ってどこだっけ?確かこの辺りの路地を……」
そう呟きつつ通りから網目のように延びている各路地を一つ一つ確認するミナト。
その路地に地元民でも遠慮してしまうような怪しく危険な雰囲気があってもお構いなしに路地をちょっと奥まで確認しながら移動を続けるミナトの様子は傍から見ると少し怪しいヤツである。治安の悪い街であれば地回りやチンピラに絡まれていてもおかしくはなさそうだが、ルガリア王国からグランヴェスタ共和国への玄関口と呼ばれるグトラの街の治安は悪くない。そのため無用なトラブルが寄って来ることはなかった。
「えっと……、この路地だったっけ?あ!あったあった。やってるといいんだけど……」
ミナトの視線の先……、小さなドアのある若干寂れた建物が一軒。そのドアに申し訳程度の看板が付けられ食堂と記載されている。この食堂はかつてグランヴェスタ共和国を訪れた時、シャーロット、デボラ、ミオと共に見つけてエール、生牡蠣のカクテルソース添え、そしてオイスターズロックフェラーを頂いた食堂である。
「やっぱり外観はマニアックというか通好みというか……。あ、灯りが漏れてる。やってるみたいだな」
前回は美女三人を含めた四人で来たので一人でドアを開くことにほんのりと寂しさを感じつつミナトはドアを開く。
「いらっしゃいませー!」
以前に聞いたのと同じ元気な声が出迎えてくれる。店の奥から現れた食堂のおばちゃんを感じさせるドワーフの女性。店の雰囲気は何も変わっていないようだ。
「一人なんですが?」
「あれ?この前、美人さん達を連れて来てくれたお兄さんじゃないの?今日は一人かい?」
「え?え、ええ……、彼女たちは用事があって……」
そう答えるミナトだが内心ちょっと驚いていた。ミナトたちがこの店を訪れたのはたった一回である。ミナトもプロのバーテンダーなので一度でも来店したお客様の顔は基本的に覚えることができるがこれはなかなか難しい技術なのだ。そしてバーテンダーではないこのドワーフのおばちゃんはカウンターの中でお客と対峙しているわけでもないのにミナトの顔を覚えていた。ホールスタッフとして極めて優秀なドワーフである。
しかしシャーロットたちがいないことについてのような余計かつお節介な話をすることなく、テーブルに案内してくれるところもまた好印象だったりする。
「この前と同じエールでいいかい?」
そう聞かれたので笑顔でエールを注文するミナト。遅い午後という時間帯だが、ちらほらと食事をしているお客が来ていた。人族の姿は見えずミナト以外の客全員がドワーフである。この店はミナトのような人族を差別するようなことはないが、ドワーフに人気の店なのかもしれない。
「おまちどおさま!エールだよ!」
元気なドワーフのおばちゃんがガラス製のジョッキを運んでくれる。そこには泡が三割なんてどこの文化ですか的に縁までぎりぎり一杯に注がれた琥珀色の液体があった。
「頂きます。それにしてもおれのことって覚えていたんですか?ちょっと驚きましたよ?」
気になったので聞いてみることにするミナト。
「そんな大したことじゃないさ!お兄さんや連れていた美人さん達はエールを頼んだだろう?人族やエルフでエールが好きな子なんて珍しいからね!覚えていたのさ!」
「なるほど……」
納得するミナト。エールはドワーフが好む酒ということのようだ。ラガー・ビールが中心の日本でエールも好んで飲んでいたいたミナト。まだこの世界でミナトのような人族は少数派なのかもしれない。
「それで今日はどうする?この時間帯なら夜の料理も出すことができるよ?メニュー持ってこようか?」
「お願いします!」
被り気味にお願いするミナト。この食堂の生牡蠣のカクテルソース添えとオイスターズロックフェラーは本当に美味しかった。そんなグトラの街の食堂が出す夜の料理……、俄然興味を覚えるミナトであった。
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