第428話 再びのグトラの街と前菜と

 ルガリア王国からグランヴェスタ共和国を目指した場合、共和国側の玄関口となるのがグトラの街である。グランヴェスタ共和国の首都ヴェスタニアからグトラの街までは徒歩で一週間ほど。その距離を【転移魔法】の転移テレポにより一瞬で移動してきたミナト。


「おお、久しぶりのグトラの街!」


 ミナトの眼下に広がる大きな街。王都のような高い建物があるわけではないが、人通りはかなり多くここからでも街の賑わいが聞こえてきそうなほど活気がある。首都ヴェスタニアと同様にこの街もドワーフの職人が多く住んでおり工房と思われるあちこちの屋根の煙突から煙が吹き上がっていた。


 そんな街並みを眺めつつミナトは首都ヴェスタニアへと続く街道へと出る。ルガリア王国とグランヴェスタ共和国を繋いでいる街道は雪で閉ざされており、そちらから街に入るなんてことを試みれば衛兵からもの凄く怪しいヤツ認定をされてしまう。


 首都ヴェスタニア側の検問では近隣の町や村との間を行き来しているらしい商人とその護衛に雇われた冒険者らしき者達が少々列をなしていた。その最後尾にミナトもつく。


「ようこそ!グトラの街へ!」


 さして時間もかからずミナトの番になり検問で冒険者証を提示すると歓迎されすんなりと街に入ることができた。グランヴェスタ共和国は職人が集まる国であり常にダンジョンからの資源を必要としている。そして今の季節は冬なのでダンジョンで獲れる食料も重要だ。そのためダンジョン探索を生業とする冒険者には好意的なようであった。


『えっと……、この前来たときは……』


 グトラの街へ入ることができたミナトはとりあえず遅い昼食をとるため食堂を探す。以前と同様にメインストリートらしき大通りを歩きながらエールを飲んで牡蠣を食べた食堂を目指すミナト。冬ではあるがグトラの街の活気は以前とあまりかわらない。軒を連ねる商店には常に人が出入りしているし、露店もたくさん出店している。


『あれは焼き鳥かな?美味しそうだけど何の肉だろう?』


 空腹なこともあり露店が居並ぶ一角にあった屋台で売られている焼き鳥風な肉の串焼きに興味を持ってしまうミナト。屋台の傍らあるスペースでは何人かが焼き鳥を楽しんでおり、どうやら立ち食いのようなことができるらしい。


「お、兄ちゃん!お目が高い!こいつはダンジョン産のロックバードの串焼きだ!おれっち秘伝のスパイスと炭火で焼き上げた自慢の味だぜ!」


ロックバード鳥肉ね。これは美味しそう……」


 思わずそんな呟きが漏れてしまう。


 この世界では農業は盛んに行われているが畜産業はあまり発達していない。肉牛のような魔物の飼育もしていないわけではないが、肉に関しての大部分はこの世界やダンジョンを跋扈している魔物を冒険者が狩ることで供給しているらしい。畜産業は酪農として乳製品を得るために乳牛やヤギに近い魔物を飼うことが中心ということだ。王都の東にある大森林で強力な魔物を狩りまくり、希少価値の高い肉を大量に冒険者ギルドへと供給しているミナトたちは、冒険者ギルドの職員たちによって王都の高級肉請負人と密かに認定されていたりする。


「おっちゃん!一本お願い!」


 牡蠣を食べる予定の筈だが、美味しそうな焼き鳥を前にミナトは前菜オードブルをこの焼き鳥に任せることに決定する。


「まいど!ディルス銅貨で二枚だ!」


 ミナトは懐に手を突っ込み【収納魔法】の収納レポノを発動。人目に触れぬように亜空間から取り出したディルス銅貨二枚を払って串を受け取る。ちなみに、『ディルス貨幣』はこの世界で主要かつ最も信頼されている通貨の一つであり、日本の通貨に換算すると下記のような価値となる。


 ディルス鉄貨一枚:十円

 ディルス銅貨一枚:百円

 ディルス銀貨一枚:千円

 ディルス金貨一枚:一万円

 ディルス白金貨一枚:十万円


 いそいそと傍らのスペースに移動して焼き鳥を味わうミナト。旨味が詰まった肉汁たっぷりであるにもかかわらず、きちんとした歯ごたえを感じさせる極上の食感……、


「これは美味い!マジで美味い!」


 思わぬ美味との出会いに感激しているミナトへグッとその右手の親指を立てる屋台の主人。その顔には職人の笑顔があった。

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