第427話 注文の確定と遅い昼食
「ふー……、大変だったけど、何とかデザインまでは完成した……」
冬の青空の下、グドーバルの工房を後にしたミナトは、首都ヴェスタニアの大通りを歩きながらそう呟く。宝飾職人のカムシンがオリハルコンを目の当りにして気絶した際、今度こそ神殿に担ぎ込む必要があるのかと思ったミナトだったが、グドーバルが呼吸の止まっていたカムシンに喝を入れてくれたので、カムシンは無事に意識を取り戻していた。
そうして復活したカムシンは純度百パーセントのミスリルをリングに用い、
これをもってミナトの注文は確定した。後はグドーバル工房に任せることとなる。
ちなみに今回のミナトの依頼ではミナトはグドーバル工房へ依頼を出し、グドーバルが宝飾に関する作業の部分をカムシンに外注したという形になっている。依頼主であるミナトからグドーバル工房への報酬はオリハルコンと肩を並べる伝説の素材であるオリヴィアの抜け毛……、もとい『フェンリルの銀髪』である。そしてグドーバルからカムシンへの報酬は慣例に則ってディルス貨幣で支払われる筈だった。しかし最高品質のミスリル鉱石と最高品質のオリハルコンのインゴットを持ち込めるような凄腕の冒険者であるミナトがディルス貨幣で報酬を支払うはずがないと直感したカムシンに詰め寄られることになったミナト。結局、カムシンへの報酬も『フェンリルの銀髪』で支払われることになったのはまた別の話というやつだ。
まだ太陽の位置は高く、夕刻にはもう少し時が必要と言ったところだろう。
「さて、これで今日の目的は達成したと……。昨日の今日でBarは休業にしたし、どこかで遅い昼食でも……?」
そんなことを呟きながらグランヴェスタ共和国の首都であるヴェスタニアの街を散策するミナト。グランヴェスタ共和国には建国時にミナトと同じ日本人で、あまり変わらない時代からの転生者と思われるヒロシという人物がいたらしい。特殊な能力は無かったようだが商会を立ち上げ、後に大商会の会長としてこの国の発展に努めたらしく建国の偉人の一人とされている。
和食を夢見たが食材を揃えることができなかったためこの国にアメリカンな料理を広めたり、温泉街が妙に日本っぽい情緒に包まれていたりと彼の影響はこの国のあちらこちらで見ることができる。
『冬の味覚ね。冬といえばやっぱり……、牡蠣?』
そんなことを考える。実は日本にいた時、ミナトは季節に関係なく牡蠣を食べていた。アルファベットのRが付く月が美味しいなんて通説もあるが、本当のところ日本、フランスのパリ、アメリカ南部のニューオリンズでは年中食べることができる貝だったりする。ただし冬が重要とか美味しいということは間違いではないらしく、七月にパリへ行った時は牡蠣自体を食べることはできたものの、フランスを代表する品種であるブロンは『冬にしかない』という理由で食べることができなかった。
『そんなことを思い出したりしていると牡蠣が食べたくなってきた。どうしよう?ヴェスタニアで美味しい店を探す?こんなことならグドーバルさんに聞いておけばよかった。でも全てお願いしますって宣言したその日に工房を尋ねるのはちょっと……、さらにそこでお店を聞くのはどうかと思う……。冒険者ギルドで受付嬢さんに美味しい店を聞く?この前、北のダンジョンで暴れたから……、誰にも見られていないと思うけど、フラグが立って受付嬢をナンパした余所者とかって難癖をつけられるテンプレがあったりしたら……』
などといろいろ考えてミナトは一つの解決策に思い当たる。
『そうだ!ルガリア王国と国境を接しているグトラの街!あそこの牡蠣料理は美味しかった!あの食堂がやっているかは分からないけど行ってみる価値はある!【転移魔法】って本当に便利!』
そうしてミナトはいそいそと首都ヴェスタニアの郊外へと移動する。街を出てからは身体強化魔法も使うので魔法陣まではあっという間である。そして美味しい遅めの昼食のためという極めて私的な理由のために伝説的な魔法である【転移魔法】の
【転移魔法】
眷属の獲得という通常とは異なる特異な経緯から獲得された転移魔法。性能は通常の転移と同じ。転移元と転移先の双方に魔法陣を設置することで転移を可能にする。転移の物量および対象に関して様々な条件化が全て術者任意で設定可能。設定した条件を追加・変更することも可。魔法陣は隠蔽することも可。
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