第426話 指輪に使う素材です

 ミナトがシンプルで機能的で美しいと感じた一枚のデザイン画を選択した。その選択結果にはデザイン画を描き上げたカムシンも納得しているようだ。


「ではミナト殿、もう少し付き合ってもらうぞ?素材を確認して今日中に最終的なデザインを決めたいのでな」


 グドーバルの言葉に、


「大丈夫です」


 と返すミナト。ミナトの返答を確認したグドーバルが作業場の中央に置かれているテーブルに素材を運んでくる。テーブルに置かれた素材はこの世にある深く青い輝石ブルー・ブルー・プラネット、そして普通のミスリル鉱石とクリスタルゴーレムの魔石、さらに銀の尾羽であった。


『あれ……?』


 その素材を前にミナトが心の中で呟いているが、


「ふむ……、このデザインでサイズ変更を組み組む場合、材質としてミスリルは必須じゃな。さらに台座を使わずに宝石を埋め込むデザインで宝石とリングにパスを繋げるならクリスタルゴーレムの魔石が不可欠か……。事前にこれらを用意しておくとはさすがグドーバルと言ったところかの?」


 カムシンがそう言ってくる。


「カムシンさんも魔道具を作成するのですか?」


 一目で素材をミスリルとクリスタルゴーレムの魔石を言い当てた宝飾職人にミナトが問いかける。


「儂自身が魔道具を造ることはないが、普段の仕事として指輪やアクセサリーの製作であってもミスリルの精錬などはよくやっておる。さらに儂のような宝飾職人は魔道具に宝飾を施すことも多い。特に魔道具に宝飾を施す際には魔道具に使用されている素材と宝飾の素材とで魔力の干渉などを起こす場合がある。魔道具とそれに使われる素材や、その素材が有する効果などは把握しておく必要があるのじゃよ」


「なるほど……」


「ま、そんな儂から見てもこの素材は適切ということじゃ。ではこの素材を使うことを前提に色を塗ったデザイン画を……」


 そう言いつつ紙と絵具を用意し始めるカムシン。


「待て待て!誰がこの素材が全てだと言った?これは試作用の素材じゃよ。本番に使用する素材はこっちじゃ!」


 ニヤリとちょい悪な笑みを浮かべたグドーバルが一つの素材をテーブルの上へと置く。ミナトに顔を向け片目を瞑ってみせるのは、


『カムシンさんに素材を見せつけたかったのかな?』


 老年に差し掛かっている大人のドワーフにウインクをされてもちっとも嬉しくないミナトはそんなことを考える。そしてミナトが採ってきた今回の依頼で指輪に使用予定である真の素材の一つ目の当りにしたカムシンはというと……、


「こ、こ、こ、こ、これは……、コレハ……」


 驚愕するカムシンの前に置かれたのはミスリル鉱石。しかしそれはただのミスリル鉱石ではない。世界最難関ダンジョンの一つとされる『地のダンジョン』の最下層にあるアースドラゴンの里でもらってきた人族や亜人の技術でも純度百パーセントの精錬が可能となる最高品質のミスリル鉱石だ。


「グドーバル!どこでこんなミスリル鉱石を手に入れたのじゃ!?こ、こんな品質のミスリル鉱石なんぞ見たことも聞いたこともないぞ!?」


 凄まじい形相でグドーバルに詰め寄るカムシン。やはりあのミスリル鉱石はドワーフにとってとんでもない素材ということらしい。


『カムシンさん、大丈夫かな……?』


 既にテンションマックスとなっているカムシンにちょっと心配になるミナト。なぜならもう一つ……、とんでもない素材が残っているのだ。


「ふふん……。ミナト殿の持ち込みじゃ。これほどのミスリル鉱石の精錬。お主もドワーフの職人であればこの機会がどれほどのものか分かるじゃろ?」


 見せつけるように笑うグドーバル。


「ミ、ミナト殿!このミスリル鉱石はこれだけしかないのか!?儂も!儂にもこの鉱石を使わせてもらうことはできないのか!?」


 もの凄い剣幕でミナトに詰め寄るカムシン。その迫力がちょっと怖い……。


「え、えっと……、今すぐは難しいですが……、い、依頼を出して頂ければ適正な価格で……?」


『適正な価格』のところでカムシンが項垂れる。


「カムシンよ。今回はミナト殿の持ち込みだから扱えるだけじゃ。購入となるととんでもない価格になるぞ?」


「そ、そうなのじゃが……、ミ、ミナト殿……」


 そんな縋るような目をされても困るミナト。さすがにこのミスリル鉱石を格安で渡す訳にはいかない。ミナトとアースドラゴンとの関係は秘密なのだ。


「それに素材はこのミスリル鉱石だけではないぞ?宝石とリングを繋ぐ素材はこれじゃ!」


 そう言ってグドーバルが金色のインゴットをテーブルに置く。


「これは……?」


「これもミナト殿の持ち込みじゃよ。お主も古文書などでその特徴は知っておるはずじゃ」


 そう言われてインゴットをしげしげと眺めるカムシン。するとその表情が驚愕に染まる。何かに気付いたらしくぷるぷるとその身を震わせ始めた。そしてミナトへと視線を向けた。


「ミナト殿!これはまさか!?まさか!?」


「はは……、精錬済みの最高品質のオリハルコン?」


 ミナトの言葉にカムシンは立ったままその意識を手放すのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る