第425話 指輪のデザイン画

 宝飾職人のドワーフであるカムシンのスキルにより次々とデザイン画が描き上がってゆく。


「あれ……、そういえば素材の話ってカムシンさんには何もしてないよね……?大丈夫なのかな……?」


 そんな素朴な疑問を抱くミナト。


 今回、ミナトが依頼する指輪にはサイズを変更できる機能を持たせることになっている。そのためにはミスリルを指輪のリング部分に用いるのが基本であり王道とグドーバルは言っていた。そしてミスリルは高純度であればあるほど様々なサイズに変更ができるようになるという。そこでミナトはアースドラゴンの里から人族や亜人の技術でも純度百パーセントの精錬が可能となる最高品質のミスリル鉱石を貰ってきた。


 さらに装着者の魔法行使の妨げになることなく装着者の魔力を蓄える機能を付与するのだが、これは宝石であるこの世にある深く青い輝石ブルー・ブルー・プラネットにその大半の機能を持たせることになる。この際、リング部分のミスリルと宝石を繋ぐ物質が必要となるのとのことで、グドーバルからはクリスタルゴーレムの魔石を提案されたミナト。詳細を聞くとクリスタルゴーレムと同じ効果のある最上位素材がオリハルコンであるということが分かったので、『地のダンジョン』へと潜りクリスタルゴーレムの魔石を手に入れると共にアースドラゴンの里で精錬済みの最高品質のオリハルコンも入手している。


 またミナトは『銀の尾羽』という素材のために首都ヴェスタニアの北にあるダンジョンにも潜っていた。


 そんな素材の情報を一切聞くことなくペンを走らせているカムシン。


 ミナトが疑問に思ったことを理解しているかのように、


「素材の情報を得る前に自由な発想で初期のデザインを検討する……、こやつの信条じゃよ。素材が決まればデザインは必ずその影響を受ける。使用できる素材が最初から指定・限定されている仕事も多い……、というかそれが大半じゃが……。今回は違う。ミナト殿の依頼はあれらの機能を施した最高の指輪の製作じゃろう?じゃからこうやって最低限の情報から一切の妥協をすることなくデザインを構築しておるのよ」


 言外に『今回は最高の素材が揃っておるからどんなデザインでも大丈夫じゃ』と言われているような気もする。


「なるほど……」


 カムシンの信条は理解できるし、今回の素材は紛れもなく最高の素材を使うのでどんなデザインでも問題ないらしいということも理解したミナトである。


 そして瞬く間に数十枚のデザイン画が完成した。


「ミナト殿が依頼している機能を指輪に施すのであればデザインはこれらのパターンのどれかになると儂は考えるが……」


 カムシンがそう言ってくる。猛然とペンを走らせていたのに息切れ一つしていない。これがスキルを使った結果なのかもと思うミナト。そんなカムシンのデザイン画をケイヴォンとリーファンが工房内の壁に貼ってくれた。


「ミナト殿、先ずはデザインの第一案を決めることになる。その第一案と使用する素材を決めた上で色を付けたより詳細なデザイン画を作成し、それに基づいて指輪を製作するといったところじゃな」


 グドーバルが製作の手順をそう教えてくれた。


「うーん……」


 ミナトの眼前には壁一面に張られたデザイン画。


 グドーバルに依頼した時、ミナトは普段使いをする指輪として手作業の邪魔にならないようなデザインとサイズ感であることと、この世にある深く青い輝石ブルー・ブルー・プラネットは悪目立ちすることなくリングのからの凹凸が無いように填め込んでほしいという要望を出していた。シンプルで美しいデザインにしたかったのである。


 壁一面に張られたデザイン画は、台座の上に大きな宝石が一つ飾られるオーソドックスな指輪から、ミナトの要望通りに宝石を台座を使わずに埋め込んだもの、そして複数の宝石を使用するものや指輪部分に意匠を凝らした者など様々なバリエーションが描かれていた。


『カムシンさんはおれの要望も何も聞かず本当に機能だけを聞いてその機能を施すことができる指輪を描いたんだ……。次はおれが好みを伝える番だね。おれの要望は変わらない……。シンプルで機能的で美しいデザイン……、シンプルで機能的で美しいデザイン……、シンプルで機能的で美しいデザイン……』


 心の中でそう繰り返しつつ、一枚一枚デザイン画を吟味する。すると一枚のデザイン画に心を奪われる。心の中に何かがストンっとハマった感覚があった。そこにはすらっとしたリングにこの世にある深く青い輝石ブルー・ブルー・プラネットが一つだけ埋め込まれた極めてシンプルながらも何とも言えない風格を感じるデザインがあった。


「これだ……、これでお願いします!」


 ミナトが一枚のデザイン画を選択する。


「ほほう……」


 ミナトの選択にカムシンが感心したような声を上げるのであった。

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