第424話 そうして翌日
そうして打ち上げを行った翌日……、
「はー、昨日はいろいろと楽しかったけど……、ちょっと疲れた……」
すっきりと晴れた冬の青空の下、そう呟いている寝起きのF級冒険者の姿を見つけることができる。既に時刻は正午を回っていた。ここはグランヴェスタ共和国の首都ヴェスタニアの郊外、ミナトはプレゼントする指輪のデザインを決める打ち合わせのために【転移魔法】の
人目を避けるために森の中に設置した魔法陣からヴェスタニはまでは徒歩で一時間もかからない。しかし街道を歩くミナトは明らかに憔悴していた。寝起きにも関わらず、目の下にはくっきりと
『ロビンと二人っきりだったから……』
心の中でそう呟く。原因は明らかだった。昨夜、ティーニュとカレンさん、そして
「吾輩との素敵な関係はマスターにとってよいものであろう?」
グイっとロビンに迫られて朝まで頑張った結果がこれである。そんなロビンは今朝のまだ早い時間帯にベッドで燃え尽きているミナトに向かって、
「まおうじ……、いや新居の建築現場に行ってくるぞ」
と宣言し、シャワーを浴びて色白の美しい肌をより艶々にしながら元気いっぱいの笑顔と共にBarを出発していた。
そんなことを思い出しつつゆっくりとした足取りで首都ヴェスタニアを目指すミナトであった。
「よく来たミナト殿。紹介しようかの……、こやつが
疲れた体を引きずってグドーバルの工房に辿り着いたミナト。早速そこでカムシンと呼ばれた一人のドワーフと引き合わされた。外見はグドーバルによく似ている。グドーバルの弟子である見習いのケイヴォンやリーファンのように明らかに若い外見をしていれば別だが大人のドワーフの年齢は外見からでは判断がつかないミナト。だがグドーバルと同じく職人の空気を纏っているというのは感じていた。
「お主がミナト殿か……、儂はカムシン。宝飾を扱う職人じゃ。今回は原石の研磨と指輪のデザインをさせてもらう。このグドーバルとは若い頃からの腐れ縁でな……。彼奴から宝飾品の依頼とは珍しいとは思ったが……、なるほど……、お主のような者からの依頼ということじゃったか……」
ミナトの姿を見て何やら納得しているカムシン。ミナトは首を傾げるが、思い起こせばグドーバルも初めて会った時、ミナトが魔法を使えることを見抜いていた。魔法が使えることはこの世界において極めて貴重な才能とされている。このカムシンというドワーフもミナトが内包しているその魔力に気付いたのかもしれなかった。
「こやつの職人としての腕は確かじゃ。この儂が保証しよう」
「ふん。畑違いのお主に保証されても何の証明にもならんが、ミナト殿の注文には全力で取り組ませてもらうとしよう。なにせ
そう言ってニヤリと笑うカムシン。そうして見習いのケイヴォンやリーファンも一緒に作業場へと移動する。
「先ずは儂からミナト殿の注文を説明させてもらおう」
そう言ってグドーバルがミナトの注文を黒板のようなプレートに書き起こす。
一つ目は異世界の定番と言ってもよいサイズフリーの機能。そして二つ目は装着者の魔法行使の妨げになることなく装着者の魔力を蓄える機能である。
「そしてデザイン的な話はこうじゃったな」
そう言って普段使いをするから手作業の邪魔にならないようなデザインとサイズ感で作ってほしいことや
「ふむ……、その魔道具としての機能を維持しつつ、さらにそのデザインを実現するとなると……」
そう呟いたカムシンがペンを持ってマジックバッグと思われるカバンから一枚の紙を取り出す。すると紙に向かって猛然とペンを走らせ始めた。手の動きが視認できなくなるほど速い。
『おお、デザイン画ができてゆく……』
その様子に驚きを隠せないミナト。
「相変わらずとんでもないスキルじゃな……」
そう呟くグドーバル。カムシンのこの能力は何かのスキルであるらしかった。
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