第423話 打ち上げの続きは誤解を招く
戦闘訓練の打ち上げはなおも続く……。
「マスター!お代わりを所望する!」
先ほどまで琥珀色の液体が入っていたロックグラスを掲げながらそう言ってくる黒髪の美女はロビンである。ミナトがドワーフのガラス工芸家であるアルカンへと注文したそのロックグラスは少し小ぶりな薄玻璃のロックグラスでロビンのスラリとした美しい手にとてもよく似合っている。飲んでいたお酒はアースドラゴンの里産であるウイスキーの中でもスコッチの印象が強いものをトワイスアップのダブルにしたものだ。この飲み方はシャーロットのおススメでありロビンもこの飲み方を随分と気に入っているようである。
常温のウイスキーを同量の水で割って飲むことをトワイスアップという。トワイスアップをダブルということは通常の二倍のウイスキーを使用するということだ。ミナトのBarではウイスキーのワンショットは四十五mLであり、ダブルということは九〇mL使用するということになる。ちなみにBarで使われる水は何らかの天然水であることが多いがグランヴェスタ共和国への旅を終えた現在、ミナトのBarで使用されている水は全てアースドラゴンの里で湧いている聖水が使用されていた。端的に言って本当に美味い飲み方である。
「ふふ……。他の燻り酒はあまり飲んだことがないのですが、やっぱりこれはとても美味しいですね」
笑顔でそう言っているのは冒険者ギルドで受付嬢をしているカレンさんだ。一杯目はジン・トニックだったカレンさんは二杯目にウイスキーをオーダーした。カレンさんはミナトのBarの常連であり最近はこのオーダーがお気に入りのようである。そこでミナトはアースドラゴンの里で見つけた塩味を感じるスプリングバンクのようなウイスキーを薦めた。
『一杯目ジン・トニックで二杯目がスプリングバンク……、女性の飲み方としてはかなりカッコいいよね』
そんなことを思うミナト。普段からそうなのだが飲み過ぎず酔い過ぎることもなくお酒を楽しんで帰るカレンさんはとてもスマートな飲み手であり、今日も柔らかい笑顔でお酒を楽しんでいる。
「お料理美味しかったです……、このワインも美味しいです~~」
ナポリタンの時から数えて既に五杯目の白ワインが入ったグラスを片手にカウンターでのんびりとしているのはA級冒険者のティーニュ。このような彼女の姿を見るのは初めてであるミナト。彼女もミナトのBarの常連だが、来店するのはルガリア王国の二大公爵家の一つであるミルドガルム公爵ウッドヴィル家の誰かが来店した時の護衛という立場で少しお酒を楽しむくらいである。護衛の際や、普段のキリっとした様子とはまた異なる寛いでくれている様子に思わずミナトは笑顔になる。
ちなみにミナトのBarではワインは赤白の関係なく一杯一五〇mLで提供している。ボトル一本が七二〇mLであれば五杯は取れない量だ。ワインは一杯一五〇mLつまり四杯取り。これはこのBar不滅のルールである。
そんな女性陣のオーダーに応えつつ、ミナトは
「ウィルさん。戦闘訓練はどうでした?」
「ああ、いい経験になったよ。安全な環境で強力な魔物との戦闘訓練とは贅沢だよな。俺達は護衛が専門の連中のように戦闘に特化したパーティではないけど、冒険者が生き残るために戦闘能力は必須だから……、でもちょっと死ぬかとも思った……」
そう言って笑うウィル。
「だが俺達からしたらロビンちゃんが魔物だったってことに驚いているんだがな……」
ウィルの言葉に
「ははは……」
乾いた笑いを返すしかないミナト。
「
「ま、テイムというかなんというか……」
ミナトの目が泳ぐ。エンシェントスライムのピエールを外套として纏って圧倒したとは言えない。種族も正確には
「吾輩はマスターの力に感服したのだ。その結果、騎士として仕える主を失っていた吾輩はマスターへと忠誠を誓うことになった!マスターは吾輩の主君なのだ!」
ミナトとウィルの会話に入ってきたロビンがミナトとの関係性をそのように説明する。
「なるほど……、
ウィルがそう納得しようとしたのだが、
「そして吾輩はオリヴィア殿、ピエール殿に続くマスター三人目の愛人でもある。そのところは間違わないでもらいたい!」
別に今ここで言わなくてもいいことだった筈なのだが、堂々と胸を張ってそんなことを高らかに宣言するロビン。頭が痛い気がしてきたのか眉間を抑えて天を仰ぐミナト。
「え……?」
「それは……?」
「そういうこと……?」
「そっちは……」
「えっと……?どうされました……?」
そう聞いてみるが彼等は動かない。きっちり四十秒ほど固まった後、どうにか戻ってきたリーダーのウィルが、
「……ミ、ミナトさん……、俺達は……、というかこのルガリア王国ではそんなのも普通だ……。だからそういった関係を否定することはないが、ミナトさんは美人だけじゃなくてそっちもイクのか?」
そんなことを言ってくる。
「はい?」
問われた内容が分からずそう聞き返すミナト。
「いやほら……、あの
そう言葉を濁すウィル。彼が言っている
「いや……、そうじゃなくてね……」
どうやって彼等の誤解を解いたものか……、思わぬ事態に困惑する。そしてウィルの誤解した内容に顔を赤くしているカレンさんとティーニュ……、二人に
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