第422話 B級冒険者パーティ 鉄の意志

 以前も説明したかもしれないが、鉄の意志アイアン・ウィルはリーダーのウィル、ケルノス、ブラック、アルバンの四人組だ。もともとウィル、ケルノス、ブラックの三人で鉄の意志アイアン・ウィルとして活動したいたところにこの冬から三人の同郷の後輩であるアルバンが加入したことで四人組となっている。


「それにしても教官とティーニュさんの模擬戦は凄かったな……」


 そう呟きながらアースドラゴンの里で造られたバーボンそっくりの燻り酒をロックで楽しんでいるのは鉄の意志アイアン・ウィルのリーダーであるウィル。ミナトが転生する以前からこの王都ではスコッチによく似た燻り酒という名前のお酒が販売されていた。主にドワーフの職人達が好んで飲むお酒であるがウィルはこの燻り酒が好みであったらしい。そんな話を聞いたミナトがちょっと違う感じの燻り酒ウイスきーということでバーボンを勧めたのである。スコッチとは異なり麦だけでなくトウモロコシを原料にした風味をウィルは気に入ったらしくストレートに続いてこのロックが二杯目である。


「俺達は教官が喚び出した魔物との戦闘でいっぱいいっぱいだったけどな……、何とか斃したけど大変だった……」

「ああ、教官は俺達の戦闘スタイルを褒めてくれたけど、もっと戦闘の幅を広げる必要があるのかもしれないな……」


 そんな話をしているのは、鉄の意志アイアン・ウィルでリーダーのウィルと共に最初からメンバーであったケルノスとブラックの二人。


 ケルノスの手には白ワインのグラスがあり、目の前にはチーズの盛り合わせがある。どうやら彼はワインが好きらしい。普段は食堂で肉の煮込みとワインの組み合わせなどを楽しんでいるらしい。ワインとチーズの組み合わせは初めてと言っていたがどうやらハマってしまったようだ。そう言われてみるとチーズはマルシェのあちこちで販売されているのを目にするのだが、食堂などでチーズプレートのような一品料理をミナトは見たことがなかった。チーズはパンと食べるか料理に使い、そのまま酒の肴にするという発想はまだないのかもしれない。だがワインとチーズの組み合わせにハマればその迷宮は一生ものである。


『迷宮……、沼ともいえるかな……?ワインとチーズの世界にようこそ』


 そう心の中でほくそ笑むミナト。銀座のBarで働いていた時からミナトの店ではワインとチーズにも力を入れていた。この世界でもそれは続けていきたいミナトである。できれば王都の食堂でも流行ってほしい。


 そしてケルノスと話しているブラックは果物が好きということでミナトはウォッカとオレンジを使ったスクリュードライバーを提案した。酔わせやすいカクテルという微妙に不名誉な評価もあるが、とても美味しいカクテルだとミナトは考えている。このカクテルでベースとなるウォッカもウオトカという名前でミナトが転生する以前からこの王都で販売されていたお酒である。スクリュードライバーはそのレシピこそ簡単なカクテルであるが、そのシンプルさのため美味しく造るのは意外と難しい。だが今回のスクリュードライバーで使用するオレンジはレッドドラゴンの里産の極上のオレンジ果汁を使い、ミナトが自信をもって作成した文句なしに美味しいカクテルだ。そのせいかブラックの飲むペースが早い。『美味しいから』という理由でもう二杯目のスクリュードライバーが空きそうだ。かなり飲みやすいが決して度数の低いカクテルではないのでちょっと心配になってくるミナトであった。


「でもあのロビンさんが教官って今でもちょっと信じられないっす……」


 そう呟くのは鉄の意志アイアン・ウィルにこの冬から加入した四人目のメンバーであるアルバン。彼はあまりお酒を飲んだことがないということでミナトはジン・トニックを提案した。ジンもジーニという名前でミナトが転生する以前からこの王都で販売されていたお酒である。そんなジンの風味をアルバンは苦手としていたらしいが、ミナトのジン・トニックは美味しかったらしく一杯目を飲み干して二杯目を注文してきた。


『ジンのストレートは好みが分かれるというか……、マティーニとかも慣れが必要になるからね……。でもジン・トニックを気に入ってくれたのは嬉しいな……』


 そんなことを考えながら、二杯目のジン・トニックに取り掛かるミナト。


 見た目はザ・男性冒険者という感じの鉄の意志アイアン・ウィルの皆さんだがテーブルマナーに加えてお酒の飲み方も随分と様になっている。こういう冒険者のお客が来るのはミナトにとっても嬉しいことで是非とも常連さんになってほしいところであった。


「ハハハ……、お主達もなかなかに筋が良い!このまま吾輩の訓練を続ければ一廉ひとかどの強者と呼ばれるくらいにはなれるであろうよ!」


 漆黒のドレスに黒髪で長髪、つぶらな紅い瞳と白い艶やかな肌にスラリとした美しいスタイルを持つ美女モードのロビンが笑いながらそう言ってくる。相変わらず美人の外見と壮年の騎士風の口調がマッチしていない。そんなロビンにグラスを掲げてみせる鉄の意志アイアン・ウィルの四人。


 ここで注目すべきは全員がロビンのことを教官と呼んでいることだ。あの戦闘訓練の後、ロビンが黒髪の美女へと姿を変えた際、鉄の意志アイアン・ウィルの四人は訓練の冒頭の様子からは考えられないくらいにスムーズにその事実を受け入れることができた。どうもボロボロになるまで続いた訓練のせいか余計なことを考えず事実をそのまま受け入れることしかできなくなったためらしい。


「ハァ、ハァ……、あ……、や……、やっぱり……、ロビンさん……、だったんですね……」


 息も絶え絶えにそう呟いて彼等は意識を失いロビンの治療を受けたのである。そうして次に意識を取り戻した時にはロビンを教官と呼びすっかり従順な教え子になっていた。いずれはこの訓練でロビンによる魔改造を受け恐るべき強者となってロビンの代わりにあのダンジョンで冒険者を鍛える教官的な冒険者になるかもしれない。そんなちょっと微妙な未来が垣間見えてしまいカウンターの内側から遠い目でBarの天井を見つめるミナトであった。

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