第418話 戦闘訓練の開始と新たなテンプレの予感

「さて……、まずはB級冒険者パーティの四人組だが、この者達と戦ってもらうことにしよう!」


 漆黒のフルプレートアーマー姿のロビンがそう言ってそのごっつい右腕を振るう。すると虚空に向こう側の見えないトンネルの入り口のようなものが出現する。そしてその入り口から一体の魔物がその姿を現わす。そしてロビンの傍らに控えるように移動した。


『大きなゴブリン……?ホブゴブリンってやつか?でもなんかとても強そう……』


 ミナトはそんなことを考えている。


首無し騎士デュラハンさんは魔物を召喚できるのか?」


 もの凄く普通の調子でそうロビンに問いかけるのは鉄の意志アイアン・ウィルのリーダーであるウィル。どうやら彼はロビンの今の姿を受け入れることができているようだ。さすがはB級の冒険者と言いたいところだがまだ動揺を隠しきれていない他の三名の様子を考えると、ウィルが素晴らしい順応力を持っているだけなのかもしれない。


「ふむ……、吾輩の種族は厳密には首を失った闘神ヘル・オーディンなのだが呼び名は首無し騎士デュラハンで構わぬ。そしてお主の問いに答えよう。お主たち人族や亜人の言葉を借りればこれは吾輩のスキルということになる」


「魔物もスキルが使えるのか?」


 ウィルは普通に話すことができている。


「それは当然であろう?炎を吐く魔物など数多あまたといるではないか?あれはお主たちの言葉でいうところのスキルである。それに吾輩のように人族や亜人の言葉を理解できるくらい高位の魔物は魔法も使えるぞ?」


「!?」


 驚いた表情をするウィル。


「……俺の生まれた村では魔物が炎を吐けるのはそういう体内器官を持っているためで……、スキルと魔法は魔物を斃すため神に選ばれた極一部の人族と亜人へのみ与えられる奇跡って聞いていたが……?」


 呆然としながらそんなことを呟くウィル。他の鉄の意志アイアン・ウィルのメンバーも力強く頷いている。


『そう言われているのか?デボラたちがふつーに魔法を使うからそんなこと考えたこともなかった……』


 ウィルの言葉に内心驚くミナト。


「何をバカなことを……、ほれ、吾輩は戦闘でこのような魔法を使用することはないがこれくらいことは簡単なのである」


 そう言ってロビンが両手から光の玉を次々と造り出してお手玉をしてみせる。その様子に


光球ライト・ボールとかって魔法かな?』


 素直な感想を思っているミナト。鉄の意志アイアン・ウィルのメンバーはさらに驚愕している。すると、


わたくしもそのような話を聞いたことがありますわ。わたくしは辺境で祀られている女神を信奉する異端の冒険者ですが、それとは異なる神を祀る東の大国……、神聖帝国ミュロンドとその国教であるバルトロス教がこの大陸に広めている教えですね」


「神聖帝国ミュロンド?」


 ミナトがティーニュへ問いかける。


「この大陸の東に位置する大きな国です。ここルガリア王国では種族、スキル、魔法が使えるかといった個人の能力で住民を差別することはありません。信仰も自由です。しかし神聖帝国ミュロンドは有能なスキルの持ち主や魔法の才に恵まれた者を厚遇する強い選民思想がある国なのです。統治している皇帝が国教であり一神教であるバルトロス教の教皇も務めている政教一致の大国ということになります。あの国でバルトロス教以外を信仰して生活するのは難しいかと……、そしてバルトロス教の教義において魔物は滅ぼすべき不浄の存在なのだとか……」


 そんなティーニュの回答に、


『この大陸にそんな国が……?おれのパートナーって殆どが魔物だよね……。それはゼッタイにお近づきになりたくない国……、あれ?これってもしかしなくてもテンプレか……?これはやっちゃったかも……、あとでシャーロットにもその国のことを聞いてみることにしようか……』


 ちょっと不穏なことが頭をよぎってしまうミナト。


「魔物にはスキルや魔法を使える存在もいる。今はそれでよかろう!戦闘訓練を始めるぞ!鉄の意志アイアン・ウィルよ。大きな魔物一体を相手に四対一で仕留める場面を思い描くがよい。吾輩が召喚したこのホブゴブリンはその辺に出現するホブより相当に手強いぞ。お主達の連携を見せて貰おう!それとこのホブは厳密には魔力による人形で生きているわけではないから情けなど無用だ!全力で戦うが良い!」


「分かったぜ!お前達!気合入れろよ!」

「「「オウ!!」」」


 鉄の意志アイアン・ウィルのメンバーが武器を構える。どうやら先ほどまでのちょっとした会話のやりとりでウィル以外のメンバーも本来の調子を取り戻したようだ。


「さてA級冒険者のティーニュ殿。お主は対人戦が得意と聞いている。先ずは吾輩と模擬戦といこうではないか!獲物はそのメイスで構わぬから吾輩を守りの剣を得意とする騎士と想定し、我が守りを突破してみるがよい!魔法も使って構わぬぞ?」


「分かりました……。それではお願いします……」


 そう返したティーニュがメイスを構える。そうして戦闘訓練が始まるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る