第417話 それは実にカオスな状況で……

 冒険者達の前で首を失った闘神ヘル・オーディンの真なる姿へと変身を果たしたロビン。シャーロットの悪戯心によってその壮絶な変身シーンを目の当りにしてしまった冒険者達はというと……、


「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……」

「これは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だ……」

「信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない……」


 何とか立ち上がり武器を構えるところまではいけたものの三人がちょっと錯乱してしまっている。呆然とした表情で虚空を見つめながら同じ台詞を繰り返しているのは鉄の意志アイアン・ウィルの三名だ。ちなみにリーダーのウィルと長年パーティを組んできたのは『嘘だ』を繰り返しているケルノスと『これは夢だ』に憑りつかれているブラックでこの冬に加入した若手が絶賛『信じない』中のアルバンというらしい。


「お前達!とっとと戻ってこないと怪我するぞ!!」


 リーダーのウィルだけは正気を保って長剣を構えるが、その顔色は真っ青である。


「嘘だ……、あんなに美人で愛らしい目をしていたのに……、あのパーティに所属していても既に夫人が三人と愛人が二人もいるなら……、ただの仲間かもって可能性に懸けたのに……、ヒ、ヒヒ、イヒヒ……」


「これは夢だ……、絶対に夢だ……、、あれ……?でもおかしいな……、さっき彼女の頭部が落下して……、あの美しい表情がゆっくりと落下して……、アハ、アハハ、アハハハハ……」


「俺は信じない!彼女は美人で黒髪でとても魅力があって……、あの笑顔が……、フ……、フフ……、フフフフフフフ……」


 何故か不気味な笑みを浮かべつつよく分からないことを言い始める三人。なかなか戻ってくるのは難しいようである。


「ミナトさん!これは何だ!?悪い夢か!?」


 ウィルが声を張り上げる。


「えっと……、とっても強い首無し騎士デュラハンとの戦闘訓練の開始直前?」


 とりあえず端的に現状を表現し、それを回答とするミナト。


「いや……、そうじゃなくて……」


 そう言ってくるウィルは取り敢えず置いておくことにして、ちらりと視線を送るとA級冒険者のティーニュはメイスを構えて戦闘の準備に入っている。こちらは問題ないようだ。


 一応、シャーロットの悪戯に巻き込まれた彼等に対しての申し訳ないという気持ちは持っているのだがこの状況で回復魔法を使えないミナトが彼等にしてあげられ得ることはあまり多くはなさそうであった。どうしたものかとミナトが思っていると……、


 ドゴォオオオオオオオオオオン!!


 凄まじい爆音がダンジョンの最下層に響き渡る。そんなカオスな状況を一刀両断するかのようにロビンが背中の魔剣をダンジョンの地面へと振り下ろしたのだ。広範囲にわたってクレーターが発生し地面が二メートルほど沈み込む。凄まじい衝撃が冒険者達を襲った。


「え?」

「あ?」

「う?」


 壊れかけていた三人がその衝撃で意識を取り戻す。何が起こったのか把握できていないようでキョロキョロとあたりを見回す三人。


「諸君!これしきのことに狼狽えてどうする?諸君らは王都を代表する冒険者であろう?未知に挑み、魔物を斃し、人々の暮らしを守る永遠の探究者!それこそが冒険者!だがそれを成し遂げるには強さが必要となる!心の強さと身体の強さの両方がな!何を勘違いしているのかは知らんがにロビン殿は所用のため既にこのダンジョンから去られた。さあ!戦闘訓練を始めようぞ!」


 壮年の男性の声色でロビンがそう叱咤する。どうやらもの凄い暴論というか無理矢理な話でこの場を収める方針にしたようだ。


『意識を失っている間って……、それで信じてくれる?』


 正直な感想が念話となって飛んで行く。


『マスターよ。吾輩に任せるのだ!』


 自信満々の念話がロビンから返ってきた。何故か黒髪の美女バージョンの声色で聞こえてちょっと驚くミナト。


「あれ……?俺はさっきまで何を……?」


「何か夢を……、悪い夢……、とても悪い夢を見ていたような……」


「戦闘訓練に来たんだよな……?ん?ロビンちゃんは帰ったんだっけ……?」


 三人もなんとか正気に戻ったらしい。


「はあ……、お前達はあの首無し騎士デュラハンが登場した衝撃で意識を失っていたんだ!さあ!戦闘訓練が始まるからしゃきっとしろ!」


『あ、ウィルさんも乗っかった……』


 どうやらウィルもロビンの設定に付き合うらしい。ティーニュは無言でメイスを構え続けている。


「ふむ。どうやら訓練を開始しても問題ないようだな……」


 ロビンの身体から魔力が立ち昇る。


『ロビン、宜しくね』


『任されたのだマスター!』


 そんな念話を交わすミナトとロビン。ロビンがどんな戦闘訓練を行うか……、その点には興味があるミナトであった。

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