第416話 真の姿

「ここかこのダンジョン主の部屋か……、ここに入って戦闘訓練かい?」


 巨大な鉄製の扉の前に立ってそう聞いてくるのはB級冒険者パーティ鉄の意志アイアン・ウィルでリーダーをしているウィル。


「そうなるかな……?」


 ミナトはそう返しつつ隣にいる黒髪の美女へと視線を送る。予めシャーロットたちとも相談し、この件に関してはいっそロビンの正体を堂々と明かしても構わないということでみんなからの同意を得たミナト。だがどのタイミングでそれをするかまでは決めていない。そんなロビンはというと、


「マスター!とりあえず皆を中へと案内するぞ!」


 その黒髪の美女である元気なロビンが明るい笑顔で扉を開きダンジョン主の部屋……、この場合は彼女の自室?へと案内する。


 そこにはホール状の大きな空間がだった。天井は明るくかなり遠くまで見渡すことができる。そのさらに奥へ行けば、この世にある深く青い輝石ブルー・ブルー・プラネットが採れる鉱脈やスーズが湧きだす泉もあるのだがその辺りは秘密である。そんな空間だが周囲に魔物の姿は無く気配なども感じられない。


「……?ミナトさん?ここで首無し騎士デュラハンが待ち構えているんじゃないのかい?」


 ウィルがそんなことを聞いてくる。ここに居るのはミナト、ロビン、鉄の意志アイアン・ウィルの四人、そしてティーニュの七人だけだ。


「え、えっと……、もう来ているというか……、一緒に来たというか……、あはは……」


 乾いた笑いと共にミナトがそんな言葉を返したことで、鉄の意志アイアン・ウィルの四人とティーニュの表情に疑問符が浮かぶ。するとそこへ……、


「諸君!ようこそダンジョンの最深層へ!改めて自己紹介をさせて貰おう!吾輩が諸君らの戦闘訓練を行うロビンである!」


 鉄の意志アイアン・ウィルの四人とティーニュに向かって堂々と宣言するロビン。相変わらず漆黒のドレスに黒髪で長髪、つぶらな紅い瞳と白い艶やかな肌にスラリとした美しいスタイルを持つ超美形なその容姿と騎士の口調が合っていない。


「「「「はい……?」」」」


 鉄の意志アイアン・ウィルの四人の声が同調する。ティーニュは口に手を当てて驚いているようだ。次に皆の視線がミナトへと集まるが、


「あはは……」


 ミナトは諦めた。もうロビンの好きにやってもらえばそれでいいという心境である。


「そうか……、この姿では説得力がない。マスターたちからも本来の姿を見せて構わないと言われておるからな。見るがよい!そしてその目に焼きつけよ!吾輩の真の姿を!」


 どこかの魔王様のような口上と共にロビンの身体が……、特に変わらなかった。


『あれ……?この前は光り輝いて一瞬にして元に戻ったり人の姿になったりしていた筈なのに……?』


 そんなロビンの様子にミナトが首を傾げていると、


 ボトリ……。


 そんな無残な効果音を共にロビンの首が地面へと落下する。そして頭部がドロリと溶けた。


「「「「「!!!」」」」」


 見つめる冒険者達が絶句する中、首から上がないままに仁王立ちするロビンの全身から稲妻のような光が発せられる。そして徐々にその身体が膨れ上がり(とても気持ち悪かった)、漆黒のドレスを引き裂く形であの厳つく装飾をほどこされた漆黒のフルプレートアーマーの巨体がその姿を現わす。その背中にあるのは見事とさえ評することができそうなほどの禍々しい巨大な魔剣。そしてその傍らにはどこから現れたのか雷光を纏い呼吸の度に炎を吐いているアンデッドの巨馬。周囲に旋風が吹き荒れる。


 初級の冒険者なら間違いなく漏らしてしまうほどのド迫力。二千年前のかの大戦の折、人族や亜人、そして魔物から恐れられた煉獄の首無し騎士ヘル・デュラハンがミナトの【眷属魔法】である眷属強化マックスオーバードライブによって進化した首を失った闘神ヘル・オーディンの姿がそこにあった。


【眷属魔法】眷属強化マックスオーバードライブ

 極めて高位の眷属を従えるという類稀な偉業を達成したことによって獲得された眷属魔法。眷属化した存在を強化する。眷属を確認して自動発動。強化は一度のみ。実は強化の度合いが圧倒的なので種を超越した存在になる可能性が…。


 鉄の意志アイアン・ウィルの四人が真っ青になって震えながらその場にへたり込む。ティーニュはさすがA級冒険者といった様子で腰を落としたりはしないが、驚愕の表情を浮かべて固まっていた。


「ロ、ロビンさん……?その変身はなんなのでしょうか……?もっと……、こう……、スマートに変身されていたと記憶しているのですが……?」


 顔を引き攣らせつつ丁寧語になってしまったミナトがそう問いかけると、


「シャーロット様に教わったのであります。吾輩が正体を明かすからにはインパクトがあった方がよいと!」


 胸を張ってガッハッハと笑いつつそんなことを言ってくる首を失った闘神ヘル・オーディン。どこから声を出しているのかその声は壮年の男性の声色である。


『シャーロット……』


 ミナトがダンジョンの天井を見上げる。そんなミナトの視界には可愛らしく舌を出し、揶揄からかうような笑顔でいるパートナーの映像ビジョンが、彼の視界限定で大写しに映し出されているのであった。

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