第415話 王都の南にあるダンジョンへ

 晴れ渡った冬の青空が広がる下、初の試みということもありミナトが立会人と案内役を兼ね、ロビン、鉄の意志アイアン・ウィルの四人とティーニュを引き連れて南にあるダンジョンに到着した。ロビンはミナトの新しいパーティーメンバーであるとカレンさんが鉄の意志アイアン・ウィルとティーニュに説明した。シャーロットやデボラたちと同じ存在であるらしいことを理解して鉄の意志アイアン・ウィルの四人は顔を引き攣らせていたが……。


 ダンジョン内については冒険者ギルドが再探索を入念に行ったことで問題がないことが確認されている。ミナトもエンシェントスライムであるピエールにお願いして分裂体を使い隅々まで確認していた。そういった経緯で解放された南のダンジョンの第一階層では初級の冒険者パーティが散見される。ミナトたち一行は彼等を気にすることなく最下層である第五階層を目指した。


 この南のダンジョンは第一階層こそ岩場のフィールドだが、第二階層以降はいくつかのホールが通路で繋がっている構造となっている。途中のホールでは初級の冒険者が魔物と戦闘を行っていた。彼等の邪魔をしないようにしながら第四階層まで降りてきたミナトたち一行。


「最初はひでぇ目に遭ったが……」


 そう呟くのは四人組のB級冒険者パーティ『鉄の意志アイアン・ウィル』のリーダーであるウィル。解禁日に潜ってデス・スパイダー系の魔物に全滅寸前まで追い詰められたことを言っているのだろう。


「こうやって普通のダンジョンになると鉱物も採れるし、弱い魔物の素材も手に入る。駆け出しの連中に経験を積ませることができるし稼ぎもそれなりになるだろう。駆け出しにはちょうどいいダンジョンってとこだな」


 ウィルはこのダンジョンをそう評した。


「ええ。王都近郊にこのようなダンジョンというのは冒険者にとってもギルドにとっても有用でしょう」


 そう答えるのはA級冒険者のティーニュ。彼女はダンジョンには初めて潜っている。


「それにしてもミナトさん。俺達は王家の管理下にある第五階層で魔物との戦闘訓練と聞いているんだが?どんな魔物と戦うことになるんだい?」


 そう問いかけてくるウィル。ティーニュは目を伏せるかのようにフードを目深に被り直した。彼女は二大公爵家の一つであるウッドヴィル家を通して詳細を聞いているのだろう。彼女から話す気はないらしい。


「えっと……、すっごく強い首無し騎士デュラハン?」


 そう言ってみるミナト。二千年前の大戦で人族と亜人に大打撃を与え、その後、シャーロットの介入を受け人族と亜人の味方になった魔王軍の最高幹部である煉獄の首無し騎士ヘル・デュラハンで、今はさらに進化を遂げ首を失った闘神ヘル・オーディンという存在になっているとはちょっと説明し辛い。


「ミナトさん……。首無し騎士デュラハンっていったら最低でもA級冒険者パーティで戦う魔物じゃなかったか?どうして強い首無し騎士デュラハンと俺達が、安全に戦闘訓練ができるんだい?」


 もの凄い怪訝な表情になってウィルがそう聞いてくる。さすがはB級冒険者パーティのリーダー。魔物のことはよく勉強しているらしい。


「えっと……、とても話の分かるすっごくびじ……、じゃなくて……、強い首無し騎士デュラハンだったから……?王家が認めるくらいに……?」


 自分で返答しているのにその内容が滅茶苦茶だと思うミナト。『びじ……美人』と言おうとしたことでロビンがちょっと嬉しそうにしているのは放っておくことにする。


「ティーニュさんはそれで納得しているのかい?」


 ウィルがティーニュに話しを向けると、


「ええ。私は納得して参加しております」


 そう断言するティーニュ。


「それならいいのか……?ま、冒険者ギルドからの指名依頼だからな。そういうことにしておくか……」


 若干、釈然としない様子を見せつつも納得した様子を見せた。そうして第五階層へと降りる階段に到着する。五人の騎士が階段を護っていた。王家からの指示はこの騎士達にきちんと届いていたらしくギルドからの書状を見せると快く第五階層へと送り出してくれた。


 騎士達の直ぐ近くにいるたくさんのピエールの分裂体が擬態を保ったままこちらに敬礼のようなものをしたことを視線の端に捉えつつミナトは第五階層へと降りるのであった。

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